似合う色

 春一番も吹く季節。

 そろそろ服も冬物から、春物に変える時期だ。


 私は制服の上に来た黒色のセーターを見つめた。

 このセーターも、そろそろ暑いから、お別れかもな。

 地味な私に似合う色だと思ったんだよ。

 とても好きだったけれども、冬も終わるし。

 春物を買ってこようかな。


 そう思って、私は服屋さんへと出かけた。



 服屋に着くと、そこには優しい色の春物の服が並んでいた。

 その春色に、私は少し面食らった。

 私にはこんなにパステルな春色は似合わないと思うんだよ……。

 地味めな顔だし……。


 だから黒色ばかりを着ていたんだけれども。


 私は、春色に萎縮しながらセーター売り場へと向かった。


 セーター売り場には、少しだけだが地味めな色合いもあった。

 灰色も、言われてみれば春色だよね。

 多分。


 こういうので、いいんだよ。

 私に似合う色だよ、これが。

 そう思って手に取ろうとすると、店員さんから声をかけられた。


美幸みゆきちゃんじゃん! ‌久しぶりじやーん!」

「あ、はい? ‌どちら様ですか……」


「私だよー! ‌芽衣子めいこ姉ちゃんだよー!」

「あ、知ってる……」


 店員さんは、私の近所に住んでたお姉さんだった。

 最近あまり見ないと思っていたけれども。


「また、こんな地味な色の服着てるの?」

「……あ、はい。私にはこれが似合うと思うので……」

「でも、春はもうすぐだし、少しは明るい色を着てみなよ!」



 芽衣子めいこさんから、薄いピンク色のセーターを手に取って渡された。

 そして、試着室に入れられた。


 これを着るのか……。

 私に似合うのだろうか……。

 着てみるだけ着てみるか。


 そう思っていたけれども、鏡に映った自分の姿に、私は驚いた。


 ピンク色が私に似合っている。

 それは、優しい色で、私の肌の色を引き立ててくれる気がした。

 そして、自分のことが少し可愛く見えた。


「いいね! ‌似合ってるじゃん!」

「そう思います?」

「本当だよ! ‌その色は、美幸に雰囲気にぴったりだよ!」


 芽衣子さんは笑顔で言った。

 直球でそんな言葉を言われると、恥ずかしくなっちゃうな……。

「ありがとうございます……」と、私は小さく言った。


 レジでお金を払って、袋に入れてもらった。

 私は、袋を持って店を出た。

 芽衣子さんは、優しく手を振って見送ってくれた。



 外は、まだ寒い風が吹いていた。

 でも、私は、心が暖かくなった。

 心は春色だ。



 私に似合う色があるんだね。


 ……あって良かった。私、この色好き。

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