次に行こう
バレンタインデーの次の日が、こんなに憂鬱な日になるなんてな。
「……いってきます」
家を出ると、空がどんよりと暗かった。
雨が降るわけじゃないけれども、空には分厚い雲が覆っている。
この季節には珍しい天気。
きっと、昨日フラれた人が多いんだよ。
そんなことを思わせる空だった。
みんなのフラれた悲しさを集めたような黒い空。
世の中には、私みたいな人がいっぱいいるんだよ。
わかってるよ。私だって。
自分の身の程をわきまえている。
先輩と不釣り合いだってことくらい、わかるよ。
けど、少し期待しちゃうところもあったりするじゃん。
せめて、お友達としてこれからも仲良くしてくださいって思うじゃん。
そんな思いとは裏腹にして、すごくきっぱりフラれたんだ。
思い出すだけで、切なくなる。
◇
昨日の放課後。
体育館裏のこと。
私は腕を前に突き出して、頭を下げる。
持ってきたチョコレートを先輩の胸のあたりに触れるような距離感。
「これ、私の気持ちです。受け取ってください」
私のセリフの後の先輩の言葉は、すごく早かった。
むしろ食い気味かってくらい。
私が言い終わる前に返事をしてきたんだ。
「ごめん。気持ちは嬉しいけど、俺には心に決めた人がいるんだ」
食い気味なセリフに驚きながら顔を上げると、先輩の追い打ちが来た。
告白されたことに対する嬉しさとかを微塵も感じていないみたいで、笑みもなく淡々と言ってきた。
「友達としても、もう関わらないで欲しい」
そういって、先輩は足早に帰っていった。
◇
それが昨日の事だった。
もう思い出したくないな。
そう思っていると、登校中の道で幼馴染の
「なんか暗いな。その顔どうしたの?」
「なに、ニヤニヤしてみてるんだよ。見ての通り、昨日フラれちゃったんだよ」
「なんだ。練習までしたのに、結局フラれちやったんだ。ドンマイドンマイ」
「ドンマイじゃないよ」
いつにもまして、私が落ち込んでいるからか、関は優しく声をかけてくれた。
「どういう風にフラれたんだよ。聞いてやるよ」
関がそう言うから、私は一部始終を関に話した。
もう誰でもいいから話したかった。
先輩の酷いフリ方を。
こいつなら、人に言わなそうだし。
「そうなんだな。けど、まぁそれが先輩なりの優しさだよ、きっと」
「何それ、あんたに先輩の何が分かるっていうのよ」
「未練たらしく俺なんかを引きずらないで、次の恋愛して来いっていう先輩なりの優しさだよ」
「そんなこと。あるのかな? 確かに、いつもの先輩らしからぬ強さがあったけど。絶対にこれを言うぞっていう感じの」
そういう考え方もあるか。
今日は風が強かったからか、空の雲が少しずつまばらになっていった。
雲の隙間から、少し朝の陽ざしがのぞいてきた。
「先輩は卒業も目前だからな。卒業しちゃう先輩のことは忘れて、次に行こうぜ」
空を見ながら、何気なく言ってくる関。
なんだか、関が少し大人に見えた。
……意外と関って、背が高いんだな。
「関に言われるほど、私は落ちこんでないわよ!……けど、まぁ『次に行こう』って、言葉はなんだかいいね。その言葉好きだよ」
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