バレンタインデー

 バレンタインデーの教室は、なんだかいつもより浮足立っている。


 男子たちは、教室の誰かがしゃべる言葉に聞き耳を立てているのがわかる。

 そんな中で、私たち仲良し女子三人グループは、男子たちに知らんぷりしながらトイレへと行く。

 トイレへ向かう道で私たちは話す。


「そんなこと意識するやつは、ただの自惚れだよね」

「ねー。お前なんかにチョコ渡さないよーってやつまで、そわそわしてるんだよね」

「一部の人気ある男子しかもらえないっていうのにね」


 体裁というものがあるから、みんな話を合わせているけれども。

 それぞれの好きな人は、互いに知っていたりする。

 なんだかんだ、みんなクラスの人気者なんて好きにならないで、クラスの目立たなそうな男子を好きだったりするんだ。


「まぁ、例外っていうのはあるけれどもね」

「そうだよね。人気者だけが良いってわけじゃないからね」

「ところで二人ともどこへ行くの? ‌トイレは通り過ぎちゃったけど」


 私がそういうと、二人は目をぱちくりさせて、とぼけだした。


「いや、私はちょっと一階ののトイレに行きたいなーなんて」

「一階のトイレって、なんだか綺麗だよね」

「まさか、下駄箱になんて言ったりしないよね?」


 私が問いかけると、二人ともそっぽを向いた。

 口笛でも吹き出しそうに、口をとがらせている。


「私、少し外の風でも浴びたいかもなー。休み時間ってリフレッシュするためにあるわけだし」

「私は、ちょっとコンビニに用があるかもなー」


 二人とも、下駄箱に用事があるんだな。

 様子からして、バレバレだ。


「美玖はどこ行くの?」

「私は、下駄箱」


 私がそういうと、二人とも目を丸くした。


「あ、ああ、そうなんだ奇遇だね。私も下駄箱を見てリフレッシュしようとしてたんだよね」

「私も、コンビニまでいかないで、下駄箱までのお散歩でいいかな」


 二人とも、見栄を張らなくてもいいのにね。


「まさか、下駄箱にチョコ入れたりしないよね?なんだか不衛生だと思うよ」

「も、もちろん! ‌チョコは直接渡さないとね」「えっと、美玖みくはどうするつもりなの?」


「私は、下駄箱に手紙を入れるんだ。放課後体育館裏に来てくださいっていう」

「なるほどなるほど。私、やっぱりコンビニで便買ってこようかな」

「私も行く行く!」


 二人とも素直じゃないな。


「私のと同じでよかったら、あげるよ」


 そういうと、二人ともパッと顔が明るくなった。


「美玖はすごいね! ‌私、美玖大好き」

「私も! ‌余ったチョコだけど、美玖にあげるよ」


 下駄箱についたら、私は便箋を渡した。

 そうしたら、二人とも手紙を書き出した。


「体育館裏って、美玖はどこ使うの? ‌校庭側? ‌プール側?」

「待って待って、私の場所も取っておいてよね」


 ドキドキしながらも、楽しそうな顔をしている二人。

 結果はどうなったのかは、明日みんなで共有だな。


 けど、こうやって友達同士でワイワイやってる感じ。

 私、好きだな。


 バレンタインデー。私、好き。

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