立春

 私は、登校中、ずっと身体を震わせている。

 最近ずーっと寒い。


 コートを着ても、足が寒い。

 ジャージでも着たらいいのかな。

 それだと、やんちゃな人たちと同じ格好になっちゃうから気が引けるんだよね。



 いつも寒い風が吹いてくる、橋の上。

 ここが一番の難所なんだよね。

 今日も、風が吹いてくるけれど、いつもと少し雰囲気が違っていた。


 ……あれ? 今日はなんだか暖かい。


 風と一緒に、梅の花の香りも漂ってきた。

 なんだか、気持ちいい。


 どこで花が咲いているのかなと思って、橋の手すりに手をついて、川の下流の方を見ると、少し花が咲いているのが見えた。

 寒いってばかり思っていたけれども、もうすぐ春なのかもしれない。

 そう思うと、なんだか嬉しい気持ちになってきた。


 なんだか、笑い出したい気分。


 目をつぶって、空気をいっぱい吸い込んだ。

 ふーー。気持ちいいなー。



 私が春の訪れを満喫していると、後ろから声をかけられた。

六華りっか、こんなところで止まって何してるんだ?」


 振り返ると、幼馴染の梅之助うめのすけが不思議そうな顔をして立っていた。

 なんだ、こいつか。

 私は、また息を吸って梅の匂いを嗅いだ。


「私ね、春を感じていたところなんだよ」

「へぇ。今日はちょっと暖かいけれど。あ、あそこに梅が咲いてるじゃん」


 梅之助は、私が見つけたのと同じ夢を指さして嬉しそうに伝えてきた。


「俺の名前と同じ、梅。あれが咲くと、俺の誕生日ももうすぐってことだな」

「へぇ。良かったねー」


 私が、それとなく話を流そうとすると、梅之助はむっとしていた。

「誕生日が来ると、嬉しいけどさ。何かプレゼントくれてもいいんだぞ?」

「何が欲しいの?」


「決めてないけど……」

「そうだと思ったよ。ちゃんと用意しているよ」


「マジで! 六華のそういうところ好きだな!」


 梅之助は、そう言って肩を叩いてきた。

 すごく嬉しそうに笑っている。


 その笑顔に、私もつられて笑ってしまう。

 別に、こいつのことなんて好きでもなんでもないけどさ。

 ただの腐れ縁ってやつだけど。

 嬉しがる姿を見ると、なんだかこっちも嬉しくなるな……。


「この前さ。スマホカバー壊れちゃったから欲しいなーって言ってたじゃん」

「うんうん」


 期待のまなざしでこちらを見てくる。

「そんな期待されても、まだ買ってないけどさ。一緒に見に行こう」

「おう! やったぜ、六華からもらえるだけで嬉しいよ!」


 嬉しそうに、梅之助は私のとなりにきて、手すりを掴んだ。

 私よりも、少し背の高い梅太郎。

 昨年よりも、大きくなってるな。

 顔つきも、だんだん大人になってきた気がするし。

 ……意外と、カッコいい方なのかもしれない。


「春っていいな! それだけで楽しくなってきちゃう!」

「……そうだね!」


 こんな嬉しそうな顔を見れるなら、毎年でもプレゼント買ってあげようかな。

 春が来るのが、待ち遠しい理由が、もう一つできたかもしれないな。


「じゃあ、学校行こうぜ! 遅れちゃうぞ!」

「うん」


 春の訪れが、なんとなくわかる。

 立春って好き。

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