節分

 いつもだったら、家の中で暴れると怒られるけど、今日だけは別。

 お母さんに、許可されてるんだ。



 私は、リビングの中央にあるコタツの周りを走り回る。

 私の前にいるのは、鬼。

 いや、鬼、あらため、お姉ちゃん。


 鬼の仮面を被ったお姉ちゃんを追いかけ回してるんだ。


「鬼は外ー! ‌福は内ー!」


 私は、これでもかと、強く豆を投げる。

 お姉ちゃんには、日頃の恨みがたっぷりあるからね!

 私の豆攻撃を浴びせられて、お姉ちゃん鬼が痛がる。


「いったーーい! ‌コラーー!! ‌手加減しなさいよーー!」


 ふふ。鬼が暴れてる。

 これ、楽しいな。

 私は、何回かお姉ちゃんに向かって、豆を投げつける。


「鬼は外に行けーーー!」


 私が投げつけた豆は、鬼のお面の隙間に入り、お姉ちゃんの顔に当たった。

 そこで、お姉ちゃんの動きが止まった。

 さすがに痛そうにして、うずくまってしまった。


「……あ、ごめん」


 動かないお姉ちゃん。


陽香はるか、強く投げすぎでしょ?」

「ごめん。鬼を退治しようと……」


 お姉ちゃんは、首を左右に傾けて首を鳴らした。


「……鬼は、怖いんだぞ?」


 今まで私が追いかけてたのに、逆に鬼が追いかけてきた。

 コタツの周りを逆回りで追いかけてくる。


「やだやだ、お姉ちゃん! ‌鬼は外に逃げていってよー! ‌そういう約束でしょ!」

「ダメ! ‌さすがに痛かったから、許さない!」


 本気で追いかけてくるお姉ちゃん。

 何周か追いかけてきたところで、お母さんが間に入ってきてくれた。


奏多かなた、ちょっとやりすぎ」

「だって、お母さん! ‌陽香本気で投げすぎなんだよ!」


 お母さんが鬼を捕まえてくれた。

 そして、お面を取って頭を撫でていた。


「まぁまぁ。これも節分だよ。今日はお父さん帰り遅いっていうし。鬼役、ありがとう。そろそろ、ご飯食べましょ」


 そう言って、場を収めてくれた。

 お母さん、ありがとう。


 ◇


 事なきを得た私は、コタツに座って待つ。

 前に座るお姉ちゃんは、まだ怒ってそうだったけど。

 二人で黙って待っていた。


 しばらく待つと、お母さんが海苔巻きみたいなものを持ってきてくれた。


「今日のご飯は、恵方巻きよ!」

「すごい、なにこれ? ‌太いよ、それも長い?」


「これはね、節分に食べるもので、今年の恵方を向いて食べるっていうものなのよ。食べま終わるまで無言で食べると、福が来るのよ」

「へぇー! ‌じゃあ無言で食べないとね!」


 恵方は、こっちらしいと、コタツから向きを変えて私は食べ始める。

 これを無言で食べきったら良い事あるんだね。

 私は急いで食べようと口の中にいっぱい恵方巻きを頬張った。


 一気に食べれば、楽勝と思っていたら、なにやらお姉ちゃんが私の前にやってきた。

 お姉ちゃんは、ニヤニヤと笑っている。


「ふふ……。さっきのお返ししなきゃなー? お姉ちゃんとして、妹に暴力を振るうのは、心が痛むのよ? ‌笑わせることで仕返ししようかなー?」


 お姉ちゃんは、口の中にいっぱい恵方巻きが入ってる私に、変顔をしてきた。

 私は、堪らず向きを変えようとした。


「あぁ、陽香ダメだよ? ‌恵方を向いて食べないと」


 お姉ちゃんは、そう言って私の顔を掴んで来る。

 そして、変な顔を見せてくる。

 頑張って、私は笑いをこらえるしか無かった。

 お姉ちゃんは、変な顔をしながら言ってくる。


「ふふふふ。節分って福が来るからいいよねー。こういう平和的な仕返しもできるしー! ‌私好きだな、節分って!」

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