乾燥機

 私はコインランドリーに来ていた。

 時計は、夜の十一時を指している。

 寒くて暗い夜闇の中を、布団を背負って歩いてきたんだよ。


 自分の布団にお茶こぼしちゃってね。

 自分のせいなんだけどさ。

 ぬくぬくと布団にくるまって、漫画読もうとしてたんだけどね。

 枕元に、水分補給用のお茶を置いてたわけよ。

 漫画に夢中になっちゃって。


「そんな男には、パンチしてやれよー!」なんて言いながらパンチってして。

 パンチを出すまでは良かったのよ。

 パンチの帰りにタンブラーに当たっちゃって……。

 それで、布団を洗いに。

 この布団が無いと寒くて寝れないし。


 トホホだよ……。



 布団を乾燥機に入れて、ボタンを押すと、30分のカウントダウンが始まった。

 うーん。時間長いなぁー……。


 私はスマホで漫画を読み始めた。

 今日は土曜日だから、学校のことは気にしなくても大丈夫だけれども。

 せっかくの土曜日の夜が潰れちゃうなぁ。



 まぁ、一人だから良いけれども。

 漫画は私の大好きな恋愛ものだった。

 主人公は可愛くて優しい女の子で、学校のイケメンに告白されて、幸せになる話だった。

 これ好きなんだよね。一気読みしようって思ってたんだよね。


 私はそんな話に夢中になって、自分のことのようにドキドキした。

 私にもこんな恋ができたらいいのになぁ。

 でも、私はそんなに可愛くないし、イケメンなんて近寄ってこないし、恋なんて無理だなあと悲しくなった。


 そんなとき、コインランドリーのドアが開いて、誰かが入ってきた。

 私はスマホを下ろして、顔を見た。

 すると、目の前にいたのは、なんと、学校のクラスメートだった。しかも、クラス三大イケメンのうちの一人、イケメン佐藤くんだった。


 目が合ってしまったので、とっさに挨拶をした。

「あ、あの……、こんにちは」


 私は彼と話したことがなかったから、どうしていいかわからなかった。


「あ、こんにちは。君は、同じクラスの山田さんだよね」


 佐藤くんは笑顔で言った。

 彼は私の名前を覚えていたのだ。私は嬉しくなって、頷いた。


「そうです。佐藤くんも、同じクラスですよね」

「うん、そうだよ。いつもここで洗濯してるの?」



「はい、同じクラスの山田です。色々と深い事情がありまして……。布団を洗濯に来たんです」


「そうなんだ。大変だね。僕は、ここが好きで、よく来るんだ」


「え、ここが好きなんですか? ‌なんでですか?」


 コインランドリーが好きな人なんて、珍しい。

 何もすることないのに。

 佐藤くんは、微笑みながら言ってくる。


「うん、本当だよ。なんか、ここは落ち着くんだよね。洗濯物が回ってる音とか、温かい空気とか、いい感じだと思わない?」


「なるほど。静かすぎず、心地よい音がして。確かに漫画は読みやすかったです。確かに、そういうのはいいかもしれませんね」


 佐藤くんの気持ちは、なんとなくわかる気がした。

 私も、なんだかほっとすることが分かった。



「で、君は、何をしてるの? ‌携帯で漫画でも読んでるの?」


「え、ええと、そうです」


 私はスマホを見て、どんな漫画を読んでいたかを確認した。

 すると、画面には、イケメンに抱きしめられている女の子の姿が映っていた。

 私は恥ずかしくなって、携帯を隠した。


「あ、ごめん……。見えちゃった。恋愛ものだね。そういうのが好きなの?」

「え、ええと、まあ、そうですね。たまには、いいじゃないですか」


 私は彼の目を見て、照れた。


「うん、いいと思うよ。僕も、恋愛ものは好きだよ」

「え、本当ですか?佐藤くんは、恋愛ものが好きなんですか?」


 イケメンだから、そういうのは興味ないと思っていたけれども。


「オススメ教えてよ」


 なんだか、これは仲良くなれるチャンスかも!


「女の子向けのしか知らないですけども……、これなんか、いいですよ」


 布団が乾くまでの30分間。

 私は、恋愛漫画の夢を見てたみたいな時間を過ごせた。


 乾燥機って、いいね。

 帰ってから、ぬくぬくの布団で夢の続きを見よう。

 乾燥機って好き。

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