中華まん
塾の帰り道。
一人、とぼとぼと歩いて帰る。
冬って寒いんだよなぁー……。
手袋をしていても、寒さって貫通してくるだよ。
あいつらって、なんだろうね。
隙間なんて空いてないじゃん、って思うよ。
けど、寒さはじわじわと手袋を冷やしていって、終いには私の手を冷やすんだよ。
寒さっていうのは、怖いねぇ……。
もっと、一気に来いっていうもんだよ。
夏の暑さは、一気に来るからまだ好きだよ。
まったく寒いのは、嫌だなぁ……。
帰り道に灯る明かりが見える。
コンビニが見えるだけで、なんだから心が温まる気がする。
寒いし、何か温まる物でも食べたいな。
そう思って、私はコンビニへと入った。
コンビニの中へ入ると、一気にメガネが曇る。
室温が、とても暖かいせいだ。
これは、ありがたい暖かさだよ。
私は、一時的に眼鏡を取って、コンビニの中をうろつく。
中に入ったからには、何か買わないとだもんね。
まだ家までは距離もあるし、何か温かいものでも買いたいな。
何にしようかなー?
温かいものって言ったらやっぱり、レジ横にあるホットスナックだよなー。
そう思いながら、レジの横まで行くと中華まんが売っているのが見えた。
あぁ、中華まんだ。
中華まんって、暖かくていいよね。
そういえば、お腹も空いてきてるし。
それも、残り一個じゃん。
ちょうどいい。
これは、私に買えと言ってるみたい。
そう思って、すぐ横のレジに行き、注文をする。
「中華まん一個ください」
「150円です」
「じゃあ、コード決済でお願いします」
そう言って携帯をカバンから取り出すと、携帯は黒い画面のまま動かなかった。
あれ……?
携帯充電切れてるじゃん……。
マジか……。
私はすぐさま、店員さんに訂正して伝える。
「えっと、すいません、やっぱり現金でお願いします」
今度は財布を取り出すと、中華まんを買うだけのお金も持っていないことに気がついた。
マジか……。
ツイてないなぁ……。
「あ、えっと、すいません……。キャンセルでお願いします……」
店員さんは、不思議そうな顔をしながら首を捻っていた。
ほんと、申し訳ないです……。
そう思ってレジから離れようとすると次のお客さんが中華まんを注文していた。
いいなぁ。
私が買えなかった代わりに、美味しく頂いてくださいな。
「……ちょっと待てよ、
私は、聞き覚えのある声に振り返ると、そこには
「井口、金持って無いなんてさ。情けない奴だなー」
「……たまたまですよ!」
私は、坂口君が中華まんを買うのを見届けると、一緒にコンビニを出た。
外は寒い世界。
コンビニで温まった身体が、また冷えだすのを感じた。
「ほら、中華まん、やるよ」
坂口君は中華まんを二つに割って、そのうちの一つを私に渡してきた。
「これで、温まるだろ?」
「……ありがとう」
手に持つ中華まんは、じわじわと手を温めてくれる。
私は、その温かさをしみじみと感じていた。
「せっかく買ったんだから、冷える前に食べちゃえよ?」
「そうだよね」
中華まんを口に含み、咀嚼して飲み込む。
すると、温かさが身体にしみ渡るのを感じた。
「初めて食べたけど、これ身体が温まるし、美味いな!」
「でしょ。私のオススメだよ!」
身体も温まって、美味しい中華まん。
心も温まるなんて、言わないけどさ。
私は、好きだよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます