大寒

 一月も後半になってきて、冬休み明けの学校生活も少し落ち着いてきたところなんだ。

 気が抜けたってわけじゃないけど、なんだかやる気にならないんだよね。


 今日は部活も休みだから、塾の自習室で勉強をして帰るんだ。

 駅前にある進学塾。

 学校は、暖房が入る部屋なんて無いから、勉強するなら塾が一番なんだよ。

 暖かいからね。



 寒い校舎を後にして外へと出ると、いつもよりも一段と寒く感じた。

 朝の天気予報を見てたら、今日は『大寒』っていう日らしいんだ。

 一年の中で一番寒いんだって。

 天気予報の大当たり。

 寒すぎて雪まで降ってきそうだよ。



 やっぱり今日は、塾でぬくぬくしながら、まったり勉強だな。

 少しずつでも、毎日進めるのが良いと思うし。

 そうやって先生も言ってたし。


 よーし、今日はまったりだー。



 寒い風が吹く中、早足で塾へと向かう。

 塾に着く頃には、身体が芯から冷えていた。


 ぬくぬくは、まだか……。

 早くぬくぬくを……。


 そう思って、かじかむ手に力を入れて。

 自習室のドアを開けてみたのが、そこには人がほとんどいなかった。


 あれ……?

 ‌いつもだったら、人がいっぱいいるんだけど……。

 今日って、自習室解放されている日だよね?


 さっき自習室が解放されたのかな?

 今いる人もなんだか、自習室に来たばかり。

 みんなコートを着たまま。


 不思議に思っていると、自習室の入口の壁に張り紙がしてあるのが見えた。


 ……ん?

 ……なんだろう?



『本日、自習室の暖房が故障中です』



 ……なぬっ。


 そんなことってあるの?

 確かに、部屋の中は寒い。

 自習室で、ぬくぬくしようと思ったのに……。


 うぅ。

 いつも暖かい部屋だからなのか、余計に寒い気もしてきちゃう。

 なんだか、空気循環のためになのか、窓も空いてるし……。

 雪がチラつきそうな天気だって言うのに。

 これじゃあ塾に来た意味ないじゃん……。


 こんなだったら、帰ろうかな……。


 自習室の入り口で考えていると、自習室の入り口の扉が開いて、持田もちだ君が現れた。

 持田君は体を震わせながら、手にはホッカイロを握っていた。

 それに加えて、はぁーーって、手に暖かい吐息をかけていた。


「おっすー、伊藤いとうも自習か? 今日って、さみーよな。早く自習室であったまろうぜ」

「持田君。残念ながら、これを見てよ。暖房壊れているんだって」


 私が張り紙を指さして教えてあげた。


「うぇっ。マジかよ。あったまりに来たのに、ついてねぇな……」

「まったくだよ。手がかじかんで勉強どころじゃないし」


 私も、持田君と同じように、手に暖かい息を吹きかけた。

 そんな私の姿を見た持田君は、少し考えた後に私に言った。


「寒そうだな。俺の使いかけで良かったらやるよ。寒くても、勉強できないと困っちゃうもんな」


 そう言って、ホッカイロを渡してきた。

 持田君って、不器用だけど、優しいところあるよね。


 持田君の好意にに甘えよう。

 そう思って、受け取るとホッカイロは、なんだかぬるかった。。


「持田君……、気持はありがたいけれどもさ」

「大丈夫、大丈夫。お返しとか考えなくていいからさ。別にバレンタインデーとか気にしてないからさ」


「……いや。違うけど。まぁいいか」


 持田君は、不思議そうにしながら席へと向かった。


 寒い自習室。

 やっぱり帰ろうかな……。



「あ、伊藤。新しいのあったわ。これで、勉強も捗るだろ」


 そう言って、新しいホッカイロを私に投げてきた。

 私が受け取ると、持田君はニコニコとしていた。


 一人、入り口で佇む私。

 なんだか、帰りそびれちゃったな。


 今日は、暖房はつかなそうだけれども。

 せっかくだから、少し勉強していこうかな。


 私は、持田の隣の席へと座る。


 持田から貰ったホッカイロを開けるけれども、まだ冷たいまま。

 温かくなるまで時間がかかるんだよ。

 これじゃ、しばらく勉強はできないよ、まったく。


 その間は、雑談でもするしかないじゃん。


「バレンタインデーって、持田好きなの?」

「お、本当にくれるの? ‌伊藤良い奴だな」


 暖かい気持ちになったお礼くらいはしてやるか。


 それにしても。

 これくらいの優しさで、心温まっちゃうなんて、大寒って寒過ぎだよ。

 そういう日も、好きだけどさ。

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