おむすび

 私は、いつもお弁当を作って持っていくんだ。

 全部自作だよ。

 高校生ともなれば、自分で作れるしさ。

 お母さんも「将来のために自分で作っておくのが良い」って言うんだよ。

 それは、お母さんが怠けるための口実って言うのは、分かっているけれども。


 自分で作ってみると、意外と楽しくて。

 玉子焼き作るのも上手くなったし。

 彩りを気にしたりするのも楽しいし。


 おかずが動かないように、おむすびを詰めるんだ。

 これで完璧。

 私のお弁当の完成です。

 これが、毎朝の日課。


 我ながら、美味しく作れているから大満足なんだよ。

 けど、いつか誰かに食べさせてあげたいなー。



 ◇



 お弁当は、しっかり詰めたらおかずが動かないの。

 だから、手に持って振ったりしても、全然平気。

 昼休みになると、るんるーんって友達と学食へ行くんだ。

 けど、なんだか今日はお休みみたい。

 大学入試前の追い込みをしてたりして、学校を休む子も増えてきてるんだよね。

 しょうがないから、一人で学食に行こうかな。


 そう思って、一人で来る学食。

 いつもよりも空いている。

 カウンターの注文列は、いつもより少ないし、席もガラガラ。


 私は、いつも通り窓際の席に座る。

 外の景色が見えて明るい席。

 たまには、一人で食べるのも悪くないかもな。


 誰を待つことなく、お弁当を開ける。

 そして、手を合わせて。


 作ってくれた人に感謝。

 私、いつもお弁当作り頑張ってるよ。

 それでは、いただきます。



 食べる前の挨拶。

 一人でいても、お辞儀をして、今日も食事ができることに感謝です。


 挨拶が終わり、顔をあげると、たけるが目の前の席に座っていた。



「美味しそうな弁当じゃん」


 私の幼馴染の尊。

 元野球部だったけど、冬になっても坊主頭なんだよ。

 冬は寒いから、髪の毛くらい生やせばいいのにさ。


「そう見える? ‌本当に美味しいんだよ、これ。私の手作りだからね」

「へぇー。すごいじゃん。ちなみに、俺も手作りだぜ」


 ふーん。

 尊って、意外と器用。


「ちょっとおかず交換しようぜ」

「うーん。ちょっとならいいよ」


 誰かに食べてもらいたいと思ってたけど、尊じゃないんだよな。

 昔から馴染みだと、なんだかなー。


「そのおむすび、美味しそうじゃん」

「なんでそれなのよ。玉子焼きとかあるでしょ。それに、人が握ったおむすびなんて食べたくないでしょ」


「そりゃあ、知らないやつが握ったものなんて食べたくないけどさ」


 そう言って、尊は私のおむすびをひょいと持っていってしまった。

 そして、すぐにパクパクと食べていった。


「これ、美味いな!」



 そう言いながら、遠慮なく食べる姿に、少し呆れてしまう。


「知り合いだって言っても、何か気が引けるでしょ、普通。どれだけ食いしん坊なのよ」

「ほら、俺のおむすびあげるよ。交換」



「私のおむすび食べられちゃったから、食べるけどさ。ちゃんと手洗って作ってるよね?」

「もちろん、心を込めて握ってるよ」



 お弁当箱とは別にされているおむすび。

 それを手に取って食べる。


 尊のおむすびは思ったよりも美味しかった。

 私が握ったのよりも、ずっと美味しいかも。


「意外と、すんなり食べてくれるんだな。抵抗されると思ったんだけどな。嫌いな奴が握ったおむすびだったら食べたくないじゃん?」

「別に嫌いって言った覚えは無いですー」



「じゃあ、俺のこと好きなの?」

「そんなことあるわけないじゃん、髪の毛生やしてから出直してきな」


 おむすびを食べあったからって、別に何ともないもん。

 そんな簡単に結ばれる関係だったら、大学に行くとすぐにほどけちゃいそうじゃん。


 私のこと好きなら、もっとしっかり誘って来いっていうのよ、ばか尊。



 ……けど、まぁ。尊が握ったおむすびは美味しかったよ。


 それだけは、好きだよ。

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