ヒーローデート

 子供っぽいの極みです。

 さすがの私も、呆れて何も言えなくなりますよ。


 日曜朝の特撮ヒーローが好きって言うのは、まだわかる。

 熱く語るのも、グッズを集めたりするのも、百歩譲って理解はしましょう。

 けれども、それを持ち出してきて、実際に街中で遊ぶというのは、いかがなものでしょうか……。



 今日も、優希ゆうきと公園でデートをしている。

 相変わらず、子供っぽい遊びばっかりする優希。

 おもちゃのベルトをつけて、変身ポーズを決めてる。

 私はそれをベンチから見させられている。


「ライダー! ‌変身っ!」


 両手を大きく振り回して、よくわからないポーズを取る。

 ゆっくり動かしたり、早く動かすところがある。

 何個かポーズがあるのかな?

 やたらと長い。


 いや、私が長く感じるだけかもしれない……。


 退屈なものを見させられている時は、時間が永遠にも感じるっていうし。

 まさに、それだ。



 私は怪人役じゃないけれども、優希に冷たい冷凍ビームのような目線を送り続けている。

 寒い季節だからって、私の冷たい視線に気づかないなんてこと無いでしょ。

 そろそろわかってよ。


 私の視線に気づいたのか、優希はニコって笑った。

 その笑顔を見ると、私はドキッとする。

 優希がカッコいいのは、分かっているんだよ。

 けど、子供っぽいところがどうにもならないのです。


「今助けに行くぞ!」


 そう言って、公園の中を走り始めた。

 私は、助けられるヒロイン役。

 一応、演じてやるか。


「た、たすけて一」


 すごく棒読みになっているのは、自分でもわかる。

 誰にも聞こえないくらい小さい声で言ったから多分、誰にも気付かれないはず。

 それでも、恥ずかしい。


 優希は、公園を一周してきて私の元へとやってきた。


「安心しろ、今助けるぞ!」


 誰か、この状況から早く助けて欲しいです。


 優希は、私の目の前で空気に向かってパンチやキックを繰り出し、架空の敵と戦っているようです。


「うわ! ‌なかなかやるな」


 優希が架空の敵に攻撃を受けたみたい。

 私を包むように寒い空気が漂ってきて。

 ……寒いです。


「よし、これで大丈夫」


 架空の敵を倒し終わった優希は、私の手を取ってそう言った。

 温かい優希の手に、私は包まれた。


「こんなに、冷たくなっちゃって大丈夫? ‌温かいコーンスープ買っておいたから、これ飲んで」


 さっき走っていた時に買ったのか、缶のコーンスープを私にくれた。

 私の好きな飲み物だ。


「あ、ありがとう」


 優希は、素に戻ると優しいんだよな。

 私は、せっかくもらったので、コーンスープを少し飲んだ。

 喉元に温かさが通っていき、胃のあたりに温かさが溜まるのが分かった。


「温かくて、美味しい」

「よかった。じゃあ、俺も少し貰うね」


 そう言って、私が飲んだ缶を奪って一口飲む優希。


 ……別に私は気にしないけどさ。

 ……それって、間接キスじゃないの?


 気にせず飲んじゃってるし。

 私の飲んだところだよ、そこ。

 別にいいけどさ。

 別に。



 優希は満足したのか、私にまた缶を渡してきた。

 優希が気にしないなら、私も気にせず飲んだらいいか。

 缶に口をつけようとすると、優希が言ってくる。


「間接キスって言うんだよね、こういうの」「え、いや、なに、え?」



 ……知ってるじゃん、優希も。

 ……そしたら、恥ずかしくて、飲めないよ。まったく。


 さっきまで寒かったのに、顔まで熱くなっちゃったじゃん。


「これで、寒さから救えたかな?」

「ばか……。アツアツだよ、もう……」


 優希はニコって、笑ってくる。


「よし、俺はヒーローだから、救えて良かったよ。やっぱり俺は、ヒーローって好きだな!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る