七草粥

 今日も、部活と冬期講習に追われて、ぐったりだよ。


 テスト期間が近づいているから、塾も休めないし、部活も引退まであと少しというところで、やめられない。

 でも、どちらも中途半端にやっている気がして、自分に自信が持てない。

 もっと頑張らなきゃと思うけど、体がついていかない。

 こんなに疲れたのは、初めてだよ。


「あー、もう、何もかも嫌だ……」


 私はぼやきながら、塾の帰り道にあるファミレスに入った。

 一人で食事をするのは寂しいけど、家に帰ってもご飯はないし、母は仕事で遅くなるし、父は出張中だし、弟は友達の家に泊まっているし、誰もいない。

 正月休みだっていうのに、まったく……。


 だから、ここで食べてしまおうと思った。

 せめて、お腹だけでも満たしておきたい。



 メニューを見ると、七草粥が目に入った。

 あぁ、今日は七草の日だったんだ。

 私は七草粥が大好きだった。



 母が作ってくれるときは、いつもおかわりをしていた。

 でも、今年は母もいないし、自分で作るのも面倒だし、食べられないと思っていた。

 だから、メニューに七草粥があるのを見て、嬉しくなった。

 これなら、身体にも優しいし、温まるし、美味しいし、最高だ。

 私は迷わず、七草粥を注文した。




 しばらくして、七草粥が運ばれてきた。白いお粥に、色とりどりの七草が散らばっている。

 ふわっと香りが立って、私の鼻をくすぐる。私はスプーンを持って、一口食べてみた。


「ん……」


 私は思わず目を閉じた。口の中に広がるのは、優しい味。

 七草の香りと、お粥の甘さが混ざり合って、私の舌をなぞる。

 温かさが私の喉を通って、胃に染み渡る。

 私はほっとした気持ちになった。

 こんなに美味しい七草粥は、久しぶりだった。


「七草粥って、とても身体に優しいんだよね」


 私はひとりごとを言った。

 私は七草粥のことを調べたことがある。

 七草は、昔から病気や災厄を避けると言われている。

 それぞれの草に意味があって、春の七草は、せり、なずな、ごぎょう、はこべら、ほとけのざ、すずな、すずしろという。

 それぞれに、清める、なだめる、厄を除く、幸せを呼ぶ、仏の恵み、栄養豊富、白く清らかという意味があるらしい。

 私はそれを知ってから、七草粥を食べるときは、いつもその意味を思い出していた。

 七草粥を食べると、病気にならないし、災厄から守られるし、幸せになれると信じていた。


「私も、七草粥のように、優しくて、清らかで、幸せになりたいな」


 私はつぶやいた。


 塾に通って、自分よりも勉強ができる人を見ると自信が無くなっていくよね。

 自分は何もできないし、何も持っていないし、何もないと思っちゃう。

 でも、七草粥を食べていると、そんな気持ちが少し和らいだ。

 七草粥は私に優しく語りかけてくれるようだった。大丈夫、大丈夫、と。



 私は七草粥を食べ終えた。

 お腹も満たされたけど、心も満たされた気分がする。


 私は店員にお金を払って、店を出た。外は寒かったけど、私は寒さを感じなかった。

 七草粥の温かさが、まだ私の中に残っていたから。


 帰り道に見える星空。

 冬だからっていうのもあるけど、星がすごく綺麗に見える。

 私も、いつかあの星みたいに輝けるようになりたいな。


 ……うん。明日も頑張ろう!



 七草粥って優しいよね。

 こんなに幸せな気分にさせてくれる。


 やっぱり私、七草粥好きだな。

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