囲碁

 お正月だから、お母さんの実家に家族みんなで来たんだ。

 おじいちゃんと、おばあちゃんが優しく出迎えてくれたの。

 久しぶりに会ったおじいちゃんは、昔と変わらず元気だった。


幸子さちこも、元気そうで良かったよ!」


 そう言って、私を抱きかかえて、高い高いしてくれた。


 おじいちゃんとおばあちゃんの家は、広い家。

 私が小さい頃は、よくこの家で遊ばせてもらってたって聞く。

 なんだか懐かしい気もするし、すごく落ち着くの。

 やっぱりいいな、この家。


 私がくつろいでいると、おじいちゃんはニヤニヤと笑って私に近づいてくる。


「幸子はもう小学生になったし、これができるかも知れないぞ」


 そう言って持ってきたのは、四角い座椅子のような物体だった。


「なにこれ、おじいちゃん」

「これはな、囲碁っていうんじゃ」


 私は見たことも聞いたことも無かった。

 四角い座椅子と、合わせて丸い『おせんべい入れ』みたいな物を持ってきた。


 それを開けると、おはじきみたいな、丸がいっぱい入っていた。

 黒い丸が入っている入れ物、白い丸が入っている入れ物。

 それぞれ分かれていた。


「ほら幸子、囲碁を教えてあげるから座りなさい」


 おじいちゃんは、ずっとウキウキした顔をしている。

 見ているこっちまで楽しくなっちゃう。

 私も、ウキウキしながら返事をする。


「はい、おじいちゃん!」



 そうして、私は一通り囲碁のやり方を教えてもらった。

 おじいちゃんは、子供の私に対してもすごく丁寧であった。


 そういえば、おじいちゃんって、昔プロの囲碁棋士をしてたって聞いた気がする。



「よし幸子。ルールはわかったと思うからやってみよう」

「うん!」


 おじいちゃんは、ハンデを付けてくれるらしい。

 私は最初に何個か石を置かせてもらった。


 ルールは教えてもらったから、分かるもんね。


 石で囲んだ陣地が多い方が、勝ちっていうゲーム。

 先に石を置けるなんて、すごーく有利なんだよ。

 黒石を持つ私は、最初に何個か石を並べて良くって、そして私のターンから始め手もいいんだって。

 おじいちゃんからの、ハンデなんだ。

 ふふふ。


 さすがのおじいちゃんでも、これじゃあ私に勝てないでしょ。



 ◇



 おじいちゃんはとても強い。

 すごいハンデをもらったのに、私とおじいちゃんの勝負は均衡していた。

 もう残り少ないけれども、私の方が負けちゃいそうだよ……。

 どこに置けばいいかわからなくなったので、適当に石を置こうとすると、おじいちゃんはわたしの事を止めた。


「幸子、ここが大事な局面だぞ。よーく考えるんじゃ。自分が良いと思う手だけじゃなくて、相手の事もしっかりと考える。そうすれば見えてくるのもあるのじゃ」

「うん。わかった」


 置いたら良いのは、私の陣地がいっぱい広がるところ。

 けど、逆におじいちゃんの立場だとしたら、ここに置くとおじいちゃんの陣地が広がる。

 そこに私が置くと、おじいちゃんの一手を防げる。


 私のプラス分、おじいちゃんのプラス分を比べて、どっちにすると私の方が陣地を多くできるか。



 ……ここに置くのが良いはず!


 黒石を鳴らしながら置くと、おじいちゃんがとても感心してくれた。



「おぉ、そこに指すか! ‌さすがわしの孫じゃ。はっはっはっ!」



 おじいちゃんは、私の頭を撫でてくれた。


「何でも、考え続けることが大事じゃ。良くやったぞ! ‌わしの負けじゃ」



 考え続けること。

 それで、見える一手があるって、おじいちゃんの言葉が分かった気がするよ。


 今度からも、途中で投げ出さないで、一生懸命考え続けよう。

 また、おじいちゃんに勝てるように!

 今度は、もうちょっとハンデを少なくして。


 おじいちゃんから教えてもらった囲碁。

 私は、大好きになりました。

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