冬至

 私は、かくれんぼっていうのが、苦手なんだよね。

 特に隠れる方が、苦手なんだよ。

 何でかって言うと、一人だけで、同じ場所に留まっていないといけないから。


 百歩譲って、かくれんぼをするにしてもですよ?

 これはですね。

 冬にする遊びじゃないって思うんですよ。


 いつか、私が偉い人になったら、『冬はかくれんぼすることを禁止にする。代わりに鬼ごっこして遊ぶこと』っていうルールでも作りたいな。

 校長先生になれば、そういうルールを作れるかな?

 うちの学校で一番偉いっぽいもんね。

 きっとそうだ。


 ううぅ……寒い……。


 今日のかくれんぼは、私は草むらの中に隠れている。

 ここには、日の光も入ってこないから、すごく暗いんだよね。

 だから余計に寒いっていう。


 そして、なにかの動物のフンが近くにあるのか、くさい気もするし……。


 早く私を見つけてくれないかな。

 私が一番最初に見つかってもいいからさ。


 次の鬼になるとしたら、そっちの方が自由に動き回れて、暖かいから。


柚希ゆずきちゃん、見つけた!」

「やっと見つけてくれた。見つけるの、遅いよー!」


 私はかくれんぼが上手いわけでもないけれど、今回は全然見つからなかったよ。


 はぁ……、寒い……。


 草むらから出てみても、周りは暗かった。

 気付くと、既に日が落ちていたらしい。

 そりゃあ、寒いわけだよ。


 けど、公園の時計を見ても、まだ門限よりは早い時間だった。


「まだ、もう一回戦できるね! ‌もう一回隠れちゃおー!」


 私は、もう嫌だけれども……。

 ううぅぅ……。

 早く見つかるところに隠れよう……。



 ◇



「ただいま……」

「あら、柚希。どうしたのそんなに体を震わせて」


「……とても、……寒い」



 いつもの時間に遊び終わって、走って家に帰ったのに全然体が温まらなかった。

 これは、今年で一番寒いよ……。

 ううぅ……。


「早くお風呂に入っちゃいな。今日はゆず湯を入れてあるから」

「ありがとう……」


 お母さんに誘導されるまま、脱衣所に行って、服を脱ぐけれども。

 手がかじかんでて、服のボタンが取れなかった。


「お母さん……、とって……、これ……」

「こんなになるまで、遊んできて。相当楽しかったんだね?」


 お母さんに服を脱がせてもらうと、私は一目散にシャワーを浴びて、すぐに湯船に飛び込んだ。


「ああぁぁあぁ、熱いーー!」

「そりゃそうよ。体が冷えてるんだもの。熱く感じるわよ」


 私の声が聞こえていたのか、お風呂の外にいるお母さんからツッコミが入った。

 そんなこと言われても、すぐ体を温めたかったんだもん。


 熱い湯船の中で、じっと体を留める。

 そうすると、じんわりじんわりと、体の芯のところまで温かさがやってくるようだった。


「ほぉー……。あったかいー……」


 こわばっていた体も、段々と力が抜けてきた。

 ふう一。これはいい。


 体が温まって落ち着いてきたら、鼻に良い香りが漂ってきた。


「お母さん。なにこれ? ‌黄色い丸いのが入ってるけど?」

「さっき、『今日はゆず湯だよ』って言ったでしょ? ‌それがゆずだよ」


 なるほど、ゆず湯というのか。

 なんだか、良い香りがして、気持ちいいな。


 体の力を抜いて、リラックス。

 うちのお風呂は、そんなに広くないから。

 かくれんぼで隠れている時みたいに、小さく丸くなって座る。


 その場で動かない状態でも、かくれんぼの時とは大違い。

 お風呂場の温かい明かりと、温かなお湯。


 それで、ゆずのいい香りも漂ってきて。

 これは、最高だ。


 私が、気持ちよく温まっていると、お母さんの声が聞こえた。


「今日はね、冬至って言うんだよ。冬至はゆず湯に入るって、昔から決まっててね。だから今日は特別な日なんだよ」


 なるほどね。私は、初めてゆず湯に入るなぁ。

 ゆずの匂いに包まれて、とてもお風呂が気持ち良い。


 ゆず湯に入れる日が、冬至って言うのか。

 それなら私、冬至って好きだな。

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