回文

 私は、回文が大好なんだ。

 回文っていうのは、前から読んでも後ろから読んでも同じになる言葉や文章なんだよ。

 例えばね、「たけやぶやけた」とか。

 後ろから読んでも「たけやぶやけた」になるんだよ。


 これを初めて知った時、私はすごいビックリしたんだ。

 初めて鏡を見たみたいな気分な衝撃だったんだよ。


 単語でもあるんだよ。

「新聞紙」とか、「八百屋」なんていうのも回文だって、パパが言ってたんだよね。

 見つけた時は、すごく楽しい気分になるんだ。

 だから、私は毎日回文を考えてるの。


 回文って、言葉の魔法なんだよ。

 この世界で、私が使える魔法の言葉。


 授業中にも考えちゃうんだよね。


 夢中になってると、どうやら先生がプリントを配ったらしい。

 前の景子けいこちゃんは、しばらくの間私にプリントを差し出していたらしかった。


「ごめん、気付かなかった。早く受け取らなくてごめんね」


 私が受け取ると、景子ちゃんが一言呟いた。


「渡しましたわ」


 それで、さっと前を向いてしまった。

 景子ちゃんは優しい子なんだけれども。

 なんだか、変な喋り方だったな。


 景子ちゃんは、また振り返って同じ言葉を言ってきた。



 ん? ‌普通にプリントを渡したっていうことだよね……。


「あっ!! ‌景子ちゃん!! ‌それ、回文だよ!」


 景子ちゃんはニコッと笑っていた。

 それで、シーって人差し指を立てていた。


 景子ちゃんも、回文好きなのかな。

 私以外にも、魔法の言葉を使える人がいたんだ。

 すごいよ。


 この楽しさを分かち合えるんだね。


 私は、景子ちゃんと楽しめるように、休み時間になるまでいっぱい回文を考えていた。


 ふふふ。

 こんなにいっぱい考えれば、楽しめそうだね。



 ――キーンコーンカーンコーン。



 休み時間になった!

 早速、景子ちゃんと遊ぼう!


 私が話しかける前に、景子ちゃんは、先制攻撃をしてきた。


「うた、歌う?」


 なるほど。そう来るんですね。

 私も何か返さないと。

 この回文への返しは、もちろんこれだね。


「歌う! ‌カッコイイ国歌、歌う!」


 景子ちゃんは驚いていた。

 私の攻撃も強かったでしょ。

 ふふふ。


 景子ちゃんは、難しい顔をしながら、ゆっくり答えた。


「よく、聴くよ」


 言葉を区切って、つづけた。


「カッコイイ国歌」


 それは、私が言ったやつだから、ノーカウントだなー。

 また、少し間を空けて、言葉を続けた。


「スイス」


 ふふふ。中々やるね、景子ちゃん。

 スイスの国歌、私は知らないけれど。

 景子ちゃんは、言葉を区切る作戦なのかな?

 中々やるね。


「いかがかい?」


 まだ続けるのか……。

 強いな……。

 そろそろ、私も返さないとだね。

 景子ちゃん意外とやるから、答えてあげないとね!


「いいよ! ‌いい!」


 私も、区切って続ける。


小池こいけ景子けいこ!」


 景子ちゃんは、実は名前が回分になってるもんね。呼びかけるだけで回文だよ。

 良い名前だよね。


「まさか、逆さま……」


 そうそう、初めて気づいたのかな?

 これは強いでしょー!


「私、負けましたわ」


 そう言って、ガックリとする景子ちゃん。

 そんな言葉を言いながら。

 あれ……?

 もしかして、これも全部回文……だった?

 負けを認める言葉まで回文にするなんて。


 それは、私の負けだよ。


中野なかの佳奈かな!」


 景子ちゃんは、私の名前を言って手を差し出してくる。

 私は、景子ちゃんと熱い握手を交わした。

 いい勝負だった。私の完敗だ。


 また回文考えよう!

 回文って楽しい。

 やっぱり、私好きだよ。

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