メイク

「お姉ちゃん。メイク教えて」


 私は、お姉ちゃんの部屋まで来ました。

 頼む時は自分から訪れる。

 これが、常識なのです。


 お姉ちゃんは、勉強をしてたのか、机に向かってましたが、こちらを振り向いて答えてくれました。


「別に良いけど。まだ早いくない?」

「いえいえ。お姉ちゃんは、小学生のメイク事情を分かってないです。絶賛大人気の魔法少女だって、メイクをする時代なんですよ?」


 私がそう答えると、お姉ちゃんはニヤニヤして答えてきた。


「へえ。やっぱり小学生は魔法少女好きなんだ」

「そうですよ。それこそ常識です。戦う女の子は誰の心も捉えるのです。そんな少女もメイクするんです! ‌だから私もメイクしたいんです!」


「うーん。その理論はわからないけれども……。メイクをするって言っても、道具がいるんだよね」


 お姉ちゃんは、引き出しを開けて、何やらメイク道具と思われるものを取り出した。


 大きくて、ふわふわした筆。

 細くて小さい筆もあったりする。

 なんか、思ったよりもいっぱいある……。


「大きいのは、頬を塗るのに使えるんだよ。淡くチークを塗るやつ」


 お姉ちゃんは、丸い缶みたいなものを開けると、中には白い粉が入っていた。

 それを大きな筆でパフパフ付けて。

 自分のほっぺにパフパフ。


「どう? ‌こうやって使うんだよ?」


 ……うーん、何か、変わったのかな?

 あまりわからない。


 けど、きっとこれがメイクの魔法。

 男の子にだけ、効いちゃう魔法かも知れないです。


「それで、こっちの細いのは目元に使うようだね」


 今度は、四角いケースを開けると、絵の具のバレットみたいに、丸いくぼみが何個も空いていて、それぞれに色が入っていた。


 ……けど、なんだか、全部同じ色に見える。

 茶色系から、赤系の色だけ。


「気分によって、これを変えるんだよ?」

「……な、なるほど。この些細な色の違いも、男の子にだけわかる魔法って言うやつですね」


 お姉ちゃんは、不思議そうな顔をして私を見ていた。


「なにそれ? ‌ちょっとやってみようか」


 お姉ちゃんは椅子から立つと、机の上に四角い鏡を立てて、私を椅子に座らせた。


「これが、メイク前の芽衣めいちゃんね。覚えておいてね」


 そう言ってから、チークをふわふわとつけてくれた。

 これ、何も変わらないような気がするんだけれども。


 鏡の中の私を見ると、なんだか肌がすべすべになっているように見えた。


「えぇ! ‌お姉ちゃん! ‌なにこれ、すごい!」「ふふふ。これがメイクの魔法だよ」


 そのあと、お姉ちゃんは細い筆を使って目元をメイクしてくれる。


「右と左で色を変えて、違いを見てみようか」


 全部同じ色に見えていたけれども、違いなんて本当にあるのかな?

 お姉ちゃんは、さささ一って、水彩画に色を塗るように私の目の上の辺りで筆を動かしていった。


「これで、どう? ‌違い分かるかな?」


 右目が少し赤い色をしていて、パチッ目が開いてるように大きく見える。

 左目は、少し茶色がかって、目元は小さめに見えるようだった。



「お姉ちゃん、これすごいよ!!」

「ふふふ。これがメイクっていうやつだよ」



 お姉ちゃんに聞いて良かった。

 メイクって、絵具みたいにはっきりした色じゃなくても、こんなに変身できるものなんだ。

 やっぱりメイクって魔法だよ。


「お姉ちゃん、ありがとう。私、メイク好きになった! ‌また今度教えて!」

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