東京駅

 東京駅って広いよね。

 人もいっぱい。

 私は、お母さんの後ろに着いていく。


「人が多いから、迷子にならないように着いてきてね」

「はい」


 迷子は大変だもんね。

 ふと横を見ると、美味しそうなお菓子が売っていた。

 これいいかもなー。

 こっちも良さそう!



 どっちか買ってもらいたいなーと思って振り向くと、お母さんが居なくなっていた。


 あれ……?

 お母さんどこに行ったんだろう?


 お土産屋の端まで行っても、お母さんはいなかった。

 元の場所に戻ってもいない。



 これは、一大事です。

 これは、『迷子』というやつかもしれないです。



 お母さんは、お土産屋さんに二つ寄って、そのあと駅弁屋さんに行って、そのあとは改札に行くって言っていた。


 私は、二つ目のお土産屋さんに向かってみたけれども、そこに行ってみても、お母さんはいなかった。



 これは大変だよ。

 、迷子になっちゃったみたい。


 小学生一年生の私だって、行く場所と、順番が分かるっていうのに。

 まったく、もう。

 お母さんって、方向音痴なんだから。


 もしかして、すぐに買い物を終わらせちゃったのかな?

 とりあえず、次に行く予定の駅弁屋さんに行ってみようかな。


 人込みの中を、一生懸命歩いて駅弁屋さんへと向かう。



 駅弁屋さんも人で溢れ返っていたけれども、お母さんの姿は見えなかった。

 自分で言ってた場所にいないって言うことは、やっぱりお母さんが迷子になっちゃったってことだよね。



 うーん。

 困ったものです。


 こういう時は、まずは、冷静にならないとです。


 お母さんを見つけるために、迷子センターに行って呼んでもらうっていうのも良いかも知れないですが。

 呼び出されたお母さんは、恥ずかしいと思うだろうし。


 良い大人が、迷子になるなって、子供に呼び出されるなんて、とっても恥ずかしいと思うよね。

 私の方が迷子にならないで、気配りもできるなんて、もしかしたら、お母さんよりも私の方が大人なのかもしれないです。


 お母さんは、私に携帯電話持たせてくれていないから、連絡できないし。

 うーん。



 そうか!

 先に改札に行って、お父さんを迎えたらいいかも。

 お父さんから、お母さんに連絡してもらえばすぐ見つかるよね。


 お父さんは、東北に出張していたから。

 帰ってくるのは、東北新幹線の改札。

 ちゃんと、到着時間も覚えているよ。

 17:00に着くって言ってたから、もう少しだね。

 時計を持って無くても、そこいらに時計はあるからね。


 もうすぐ17:00じゃん。

 もう、お母さんったら。

 いつも時間ギリギリなんだから。

 家出るのが遅かったんだよ。


 東北新幹線も改札はいっぱいあるけれども。

 いつもお父さんと待ち合わせするのは、こっちだな。


 北乗り換え口なんだよね。

 お父さんは、「から帰ってよー」って言いたいから、毎回この改札だって、お母さんが言ってた。

 お母さんは、「寒いギャグをどうも」って言って出迎えるのが、毎回の流れ。


 それで二人は笑い合うの。



 そうやって覚えている私も、お子様なのかもな。

 もっと大人にならないと。


 改札についたら、お父さんが改札から出てくるのが見えた。

 お母さんを探していたら、ギリギリの時間になっちゃったな。


「お一い! ‌お父さんここだよー!」

「おお。弘子ひろこ、ただいま。あれ? ‌お母さんが見えないけれど、トイレにでも行ってるのか?」


「違うよ。お母さんは迷子になっちゃったの」「へ?」


 その時、後ろからお母さんの声が聞こえた。


「お父さんー、大変だよ! ‌弘子が迷子になっちゃったみたいなのよ。……って、あれ? ‌弘子?」

「お母さん、遅いよ。ギリギリまで、買い物楽しんでたでしょ? ‌私探してたんだよ、お母さんの事」


 お父さんとお母さんは、顔を見合わせて笑っていた。

 いつものダジャレ言ってないのに。


 私にはわからない高度なダジャレが入ってたのかな?

 うーん。



 お父さんは、私の頭をなでながら褒めてくれた。


「弘子はすごいな、東京駅に詳しいんだな」

「もちろんだよ。いつも東京駅では、お母さんは嬉しそうにしているし、お父さんと会えるんだもん。私、東京駅好きだよ」

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