ブッシュドノエル

 これも美味しそう。

 こっちも美味しそう。

 こっちもこっちも。


 何でみんな美味しそうなんだよぉーー。

 全部食べたいようー。


 一つだけなんて、選べない……。

 今年のクリスマスケーキは、どれにしたらいいんだろう……。




 デパートの地下にて。

 私は、今絶賛、迷子なのでした。


 迷子って言っても、お母さんはすぐそばにいるの。

 クリスマスケーキがどれが良いかわからないっていう、迷える子供なのです。


 フロアの隅から隅まで回って、ケーキを見比べていって。

 今、二週目の途中です。


 後ろに着いてきてくれているお母さん。

 最初はニコニコしていたけれど、少し疲れた様子だった。

 分かっているけれども、決まらないんだもん。


 相変わらずじっくりとケーキを眺めている私に対して、お母さんは私の肩をトントンと叩いた。


有紗ありさちゃん。この辺りで、一回休憩しようか」

「……うー。わかった」


 どうやっても、こんないっぱいの中から選ぶなんて難しすぎるよ。

 普通の白いクリームの乗ったケーキだけでも種類がいっぱい。

 チョコケーキも、フルーツケーキも、ロールケーキだってある。


 うううう……。

 ダメだ……。


 お母さんに連れられて、デパートのエスカレータを上がっていく。


 すると、ケーキ売り場が視界から消える。


 ……ふう。

 何か憑き物が落ちたみたいに、なんだか安心した。


「有紗ちゃん、一回落ち着いてさ。まずは、種類を決めてみようか」


 エスカレーターを登り切ると、お母さんの優しい顔がはっきりと見えた。


 そうだよね。

 お母さんは、私の味方だもんね。

 落ち着いて考えてみよう。


「クリームと、チョコレートと、フルーツと、有紗ちゃんは、どれが好きかな?」


 ゆっくりした口調で尋ねてくるお母さん。

 私も落ち着いて考える。

 すると、段々と自分の食べたいものが見えてきた。


「私は、甘いチョコレートがいいって思う!」


 私がそう答えると、お母さんはうんうんとうなづいてくれた。


「チョコレートって甘くていいよね。そうしたら、次は種類を考えてみようか。チョコレートにも種類があるからね」


 優しいお母さんに導かれて、するすると答えが出てくる。


「チョコレートで、形も可愛いのが良い! ‌切り株の形してるのが、一番可愛かったの!」

「そっか、そっか。一番可愛かったなんて、良かったよ。とっても良いケーキが見つかったね」


 お母さんは、私が思ってることを、なんでも分かってるみたい。

 私は、あの切り株のケーキが良いと思ってたんだ。

 なんで自分で気づけなかったんだろう。


「そのケーキはね、『ブッシュドノエル』って言うんだよ」

「そういう名前なんだ! ‌私ブッシュドノエル大好き!」

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