双子

西さん……、あれ違った。ごめん間違えた」


 私は西野にしの智子ともこだよ。

 間違ってないよ。

 なんだろ?


 そう言って、私から離れていき教室のドア付近の東野さんの席へと向かった。


 ……あぁ。またか。そういう事ね。

 ことの顛末を、私は眺めておく。



さん、これ音楽室に忘れていたよ。届けに来たよ」

「あれ、本当だ。ありがとう」


 良くあるんだよね。

 私と、東野さんを間違えるっていうこと。

 その間違えなら、納得だけど。


 東野さんは、肩にかかるくらいの髪の長さ。

 前髪を真っすぐ切り揃えている。

 私の好きな髪型をしている。

 特に揃えたわけでもないけれども、私も同じ髪型をしているのだ。


 私とよく似てる子、東野ひがしの智美ともみさん。

 後ろ姿は似てるし、名前もなんだか似てるから、良く間違われがちなんだよね。


 よくよく見ると、顔は違うんだけどな。

 どちらが可愛いかって言ったら、東野さんだって思うけれど。

 それでも、間違える人がいるんだよね。


 そんな東野さんの元へ、別の女の子が向かって行った。


「東野さん、これさ、この前借りてた漫画。とっても面白かったよ。やっぱりさ、ヒロインの子可愛いよね」


 そうやって声をかけられた東野さんは、首をひねって不思議そうな顔をしていた。

 あの漫画、私も持ってたな。

 あの子の言う通りで、ヒロインの子可愛いんだよね。

 まさにその通り。


「東野さんも、そう思わない?……ってあれ? もしかして、間違えちゃったかも。これ、西野さんに借りたのか」


 そう言って、私の方を振り向いてくる。

 あぁ、やっぱり私貸してたかも。


 そうだ、そうだ。

 貸してたよ。


 その子が、漫画を持って混乱しているようだったので、私は席を立って、東野さんの席まで寄っていった。


「話は聞こえていたよ。この漫画は私が貸してたね」

「そうそう。そうだよね。ごめん間違えちゃった」


 手を合わせて、申し訳なさそうにしている。

 分かってくれればいいか。

 私は、東野さんの席の前で、漫画を返してもらった。


 そのまま席へと戻ろうと思ったけれど、さっきまで眺めていた東野さんをチラッと見る。

 東野さんはこちらを見ていたようで、目が合った。


 東野さんは、私を見ながら席から立ち上がった。


 しばらく二人で見つめあう。


 何だろう東野さん。

 私と同じくらいの身長。同じ髪型。


 やっぱり、似てるのかもしれない……。


 東野さんはニコッて笑って口を開いた。


「西野さんって、私と似てるかもね」


 東野さんは、私と似てるってこと、嫌じゃ無いのかな。


「私さ、兄弟とかいなくて、なんだかこんなに似てると親近感が湧くよ。ちょうど同じ髪型だし。私達、なんだか双子みたいだね」


 こんなに可愛い東野さん。

 私なんかと似ちゃってて、申し訳ないな。


「西野さんは私と違って可愛いからさ。なんだか嬉しいよ。双子って私好きなんだ」

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