テレパシー

 宇井うい君の考えていることが分からないんだよな。

 私が話しかけてもしゃべらないし。


 私のクラス四年一組の誰が話しかけても、頷くだけ。

 笑い顔を見せたりもするけれども、すぐに無表情に戻っちゃうし。

 私はひっそりと宇井君のことを『宇宙人』って呼んでるんだ。


 みんなには内緒。

 いじめとかに発展しても嫌だし。



 宇井君は、誰とも仲良く無いみたいなんだよね。

 あ、元気に外で遊ぶ男のグループが宇井君のところに来た。


「宇井、ドッチボールしようぜ!」


 そんな呼びかけに、宇井君はニコニコと笑っているだけだった。


「楽しいと思うんだけどな。まぁ良いか」


 宇井君、何も言葉を発してないよね。

 表情もそんなに変わっても無いし。

 それで不思議と伝わっちゃうんだよね。

 テレパシーとか使えるんじゃないかって思っちゃう。


 やっぱり『宇宙人』だ。

 今度は、女の子グループが宇井君のところにやってきた。


「宇井君、みんなで大縄跳びしよう!」


 そんな女の子たちに対しても、宇井君はニコニコと笑っているだけだった。


「わかった。今度は一緒にやろうね」


 うーん。

 やっぱり謎なんだよね。

 声を発してないよね。


 なんでみんな分かったって言って、どこか行っちゃうんだろう。

 何をするのかなって見ているけれど、特に何をするわけでもく。

 一人で席でぼーっとしている。


 そういう私も一人ぼっちで席に座っているだけなんですけれども。

 みんな外へ遊びに行っちゃって、私と宇井君だけが教室に残っていた。


 なんだかタイミング逃しちゃったし、宇井君誘って何か遊ぼうかな。

 どんな遊びが好きなんだろう。

 みんなの遊び断っちゃうわけだし。


 なんて誘えば一緒に遊んでくれるかな。

「図書室で本を読もう」とかが良いかな?

 二人で遊ぶってなると違う気もするし。


「折り紙一緒にしよう」とか。

「お絵かきでもしよう」とかかな。


 色々と考えていると、宇井君が席を立った。

 そして、私の方を振り向いた。


 え、もしかして。

 やっぱりテレパシーとか使えちゃうのかな。

 私の考えていたこと読み取られてたのかな。


 怖いかもしれないけれども、それが出来るとしたら、すごいことだよね。

 私もやり方教えてもらいたいかも……。


 宇井君は、私の席の前まで来て止まった。

 私を見つめる宇井君。

 けれど、宇井君は何も言わない。


 何か訴えてるのかな?

 私にはそのテレパシー受信できないな……。


 けど、私の考えは送信できてるのかな?

 考えたらきっと伝わるんだよね。


 宇井君、一緒に遊びたいなー。

 この想いが伝わって一。


 私は目を細めて、少し眉間に力を入れて宇井君を見つめた。

 そんな私の顔を見て、宇井君はニコッと笑った。


「そんな怖い顔しないでよ。一緒に遊ぼう?」


 宇井君はニコニコした顔のまま。

 どこからか声が聞こえてきた。

 テレパシーが私にも伝わった。

 すごい!


「宇井君、それ私にも教えて! テレパシー!」


 私がそう言うと、宇和君は口を開けて大きく笑った。


「あははは。テレパシーじゃないよ。これ、腹話術の練習してるんだ。口を動かさないでしゃべる練習」

「……ほへ?」


 宇和君はまたニコニコして、動かない口でしゃべり始めた。


「一緒にやってみる?」

「それ、やっぱりすごいよ! 私もやってみたい。私テレパシーとか好き」

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