ヨーグルト

 毎朝、私の朝ごはんのお友達。

 私は、毎朝ヨーグルトを食べるんだ。


 ヨーグルトは、お腹の調子も整えてくれるし。

 何より美味しい。

 これを食べてる時が至福の時だよね。


 朝の忙しい時間の中でのひと時。

 幸せだよぉ……。


 ……はぁ。天国。



 そんな天国気分の時に、お母さんはテレビの前に腕を組んで立った。



「……奈緒なお、早くしないと遅刻するよ! あんた‌寝坊したのに、ゆっくり食べてないで!」

「……あれ? ‌もうこんな時間か!」


 気付いたら、いつも家を出る時間を過ぎてしまっていた。

 ……うぅ。背に腹はかえられませぬ。


 しょうがないので、ヨーグルトを一気に食べてしまう。

 残すことは、私のヨーグルト愛が許さない。


 一気に食べちゃってごめんね、ヨーグルトちゃん。

 明日は、ゆっくり味わうからね。


「もう! ‌残していいから、早く行きな!‌」

「……あい」


 支度は済ませてあるから、鞄を持ってすぐに家を出た。


「お母さん、行ってきます!」



 遅刻、遅刻ー!

 いつもは、余裕があるのに。

 うぅー。


 走って走って。

 冬の寒空は顔をチクチクと刺してくる。

 冷えるー。

 明日はもう少し早く家を出よう。


 駅に着く頃には、顔も温まっていた。


 ふぅ……。

 いつも乗ってる電車には乗れなさそうだけど、高校には間に合いそうな時間だ。

 危ないところだった。


 改札を抜けて、階段を走って登っていく。

 すると、ホームにははやし先輩がいた。

 私の中学の時の先輩。

 カッコいい女の先輩。



 林先輩はこの時間の電車なんだ。

 久しぶりだな。

 声掛けてみよう。


「お久しぶりです、先輩。元気してましたか?」


 林先輩は私に気付いてくれた。

 さすがに一年くらいじゃ、顔覚えてるよね。

 今まで見たことないくらいの笑顔を見せてくれた。


 林先輩にしては珍しいな。

 すごく可愛いです。


「おはよう。奈緒ちゃん。今日はすごい慌てて、家を出たんだね。はははは」

「えっ? そうなんですよ。息上がっちゃってますか? 結構走ってきたので。はははは」


 林先輩って、なんだかいいな。

 こうやって一緒に登校できるなら、今度から一本電車遅らせようかな。

 そうしたら、至福の時間がここでも味わえることになるんだよね。

 ふふふ。


「今でもヨーグルトが好きなんだね?」

「あ、そうです。私ずっとヨーグルト好きなんですよ。朝はやっぱりヨーグルトです。あれ? 何でわかったんですか?」


 私が不思議がっていると、林先輩はポケットからティッシュを取り出して、私の口めがけて突き出してきた。

 それで私の口をごしごしと擦った。


「なになに? 林先輩おかしいですよ。どうしたんですか?」


 私がそう聞くと、林先輩は私の口を拭いたティッシュを見せてくれた。

 そこには、白くヨーグルトが付いていた。


「慌てて出たから、ヨーグルトが口についてたよ」

「あーーー。ごめんなさい。すごい慌てて」


 そういうことか、林先輩が笑っていたのって。


「奈緒ちゃんは、相変わらず可愛いね」


 見たことないくらい笑う林先輩。

 恥ずかしかったけど、林先輩が笑ってくれたからいいか。


 それもこれも、ヨーグルトのおかげだね。

 そういうことにしよう。


 至福の時間が味わえる。

 そんな食べ物のヨーグルト。

 私は好きです。

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