12月

顔出しパネル

 初デートは、どこに行くと良いか。


 そんな情報を私もチェックしたの。

 今日の日のために。


 二人きりでどこか遊びに行こうって、それってデートってことだよね。

 多分。

 きっと……。


 私はそうだって思ってる。


 けど、八谷やたに君はどこか抜けてるところもありそうだからな。

 単純に暇だっただけなのかも。

 今考えると、デートに誘ってくる時も、なんだか変だったんだよな。


「チケット余ってるんだけど、行ける奴いないのかー」って教室で大声で言い出して。

 周りのみんなも、なんだかわざとらしく「行けないやー」って言いだして。

 暇だったのが私だけだったから、誘われちゃったみたいな感じで。


 ……とはいえ。

 初デート、楽しみにしてたんだ。


 すごく気合入れて来たんだよ。

 可愛いピンク色コーデ。

 地雷系なんて揶揄されるけれども、私はそういう服が好きだし。

 八谷君も、きっと可愛いって思ってくれるはず。


 待ち合わせ場所の映画館の前に着くと、八谷君が先にいて、待っていた。

 八谷君も、どこかオシャレをしているようだった。

 私は八谷くんに駆け寄る。


「待った?」

「い、いや、全然」


 あれ?

 私でも20分前についてるから、もっと早く来てるってことなのに。

 八谷君は、時間感覚がおかしいのかな?

 まぁ良いか。


「まさか、初デートに緊張したの?」

「いやいやいやいや、これはデートじゃねえし。ただの映画鑑賞だし」


 あれ? ‌デートだと思ってたのは私だけか。

 しょうがない。

 例えデートじゃなくても。

 楽しんだもの勝ちだよね。


「八谷君、その服カッコいいね。意外とオシャレなんだね」


 私がそう言うと、八谷君はそっぽを向いてしまった。


 ……うーん。

 私の会話チョイスは、とてもデートっぽいと思ったんだけどね。

 やっぱり、これはデートじゃないのか。


「……七瀬の方こそ、普段のイメージとは違って、可愛い服だな」


 おぉー?

 私の話に合わせてくれる。

 なんか、照れる一。


 けど、八坂君。

 相当暇だったんだな。

 映画見る代わりに、私にデート体験をさせてくれるって言うサービスをしてくれてるんだね。

 けど、私を良い気にさせようって言っても、ちょっと言葉のチョイスを誤ってるなぁ。


「八坂君、『普段のイメージとは違って可愛い』って、なんかひどいよ? 『いつも可愛いけど』くらい付けてよね」


 私が話しかけるたびに、八谷君はそっぽ向いちゃう。

 これはデートじゃないんだから、勘違いするんじゃねえぞっていう表れなのかな?

 八坂君は、難しいですね……。


 私は、そっぽを向いた八坂君についていく。

 映画館の入口のところに、券を買おうとする人が並んでいたけれども、今日は八坂君の券で見れるからね。

 お得、お得。


 けど、流石に何か返さないといけないかな?

 これ以上おんぶにだっこだとね。

 デートじゃないんだもんね。

 券売り場の横に売店が見えた。


「八坂君、映画見ながら何か食べたくない? 私が買ってくるよ!」

「い、いや、七瀬が何か食べたいなら、俺が買うよ」


 あらら。

 なんだか、私はかなり拒絶されてるみたいだな。

 ……うーん。


 八坂君は、買ってきたポップコーンを私に持たせてもくれない。

 ……うー。


 何かできないものかな?

 チケットを見せて、映画館の廊下を歩く。


「あ、顔出しパネル! 私これ好きなんだよね」


 そうだ、八坂君に顔ハメてもらおう。

 それで私が写真を撮ってあげる。

 流石に自分じゃ取れないからね。


 そう思ってると、八坂君は鞄の中から伸び縮みする自撮り棒を出した。

 顔出しパネルでさえ、セルフで撮っちゃうんですね……。

 私にできることは無いな……。


「せっかくだからさ、七瀬もそっちから顔出して」

「え? いいの? やったー!」


 そうか。八坂君一人じゃできないこともあったね。

 二つ顔出す所があれば、二つ顔が入ってないとカッコ付かないもんね。


 顔出しパネルから顔をはめた状態で八坂君が話しかけてくる。

 私も、隣で顔をはめたまま話す。


「お前って、思ったよりも可愛い所が多いんだな。顔出しパネルが好きだなんて」

「また、そんな言い方して。私はいつでも可愛いし、顔出しパネルは、人類みんなが大好きなんですよ」

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