牛乳

 温泉街って、冬は賑わうんだよね。

 今まで全然見向きもしなかったような人達がいっぱい来たりする。


 ここは、私と陽太ようたの遊び場なのにな。

 おじちゃんがやってる宿が、私と陽太の遊び場になってる。


 ちょっと古い建物だけれども、掃除はきちんとされてて綺麗なんだ。

 ちょっと、すきま風が寒いけれども。


 今日も小学校帰りに遊びに来た。

 旅館のドアを開けると、おじちゃんが迎えてくれた。

 笑った時のシワが、顔から取れなくなっちゃったみたいな顔をしてるおじちゃん。


「おじちゃん、こんにちは。今日も貸してください」


 私と陽太がそう言うと、おじちゃんは顔のシワをさらに深めて笑って答えてくれる。


「いいよ。お客さんが来るまでの間ならいいよ」

「ありがとう」


 いつもの事だけど、親しき仲にも礼儀ありって、お母さんが教えてくれたからね。

 毎回ちゃんとお願いしてるの。


 私も、おじちゃんも、笑った顔を見せあえるから、この挨拶はとっても良いって思うんだ。


「陽太も、ちゃんと言いなよ?」

「はい! ‌おじちゃん、今日もありがとうございます!」


「ははは。どうぞどうぞ」


 陽太にも、ちゃんと優しいおじちゃん。


 私たちは、ありがたく、ここで遊ばせてもらってる。


 温泉宿の一階部分には、卓球部屋があるのだ。

 私と陽太は、毎日ここで勝負をしてるんだ。


「今日は、絶対に勝つからな!」

「私だって、負けないんだからね!」


 そう言って、位置に着く。

 いつも同じ場所。


 ちょっと古いから、卓球台が歪んでるところも、楽しいところだったりする。

 陽太は、男の子だからハンデで、歪んだ方を使ってる。

 思わぬ方向にバウンドしたりするんだよね。

 それでも、私といつも互角の勝負をしてる。


 今日は、勝てるかな?


「いつも通りのルール。勝った方が、牛乳奢りだからな!」

「OKだよ!」


 いつも、白熱する卓球勝負をして、それで温泉に入るところまでがワンセットなんだ。

 勝った時の牛乳は格別なんだよね。



 ◇



 ふぅー。

 今日も良い勝負だったなー。

 熱い試合のあとは、これに限ります。

 温泉に肩まで浸かって温まる。


 温かいお湯が、全身の汗を落としてくれるみたい。

 温かさに包まれてる。


 身体があったまった後は、温泉の掃除をする。

 私と陽太は、温泉に入らせてもらう代わりに、掃除をするんだ。


 まだお客さんがいない時間だから、いつも貸し切り状態。


「陽太、そっちは掃除終わったー?」

「もうちょっとで終わるよー」


 男湯と女湯でそれぞれ話すっていうのも、中々楽しくもある。

 普段は出来ないからね。


「私の方終わったから、もうちょっと温まっておくね!」


 別に、一緒に上がらなくてもいいんだけれども、なんでか一緒に上がるんだよね。


 けど、温泉上がりの牛乳は、一緒に飲む方が美味しく感じるんだよね。


 勝負に勝っても負けても。

 一緒に楽しんだ仲間と飲む牛乳は美味しいのです。


 私は、それが大好きです。

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