良い夫婦

 はぁ。なんでこうなるのかな……。

 お父さんが、何かをやらかしたらしいです。



 お母さんの顔を見ればすぐわかる。

 すごーく怒って夕飯作ってる。


「なんで、事前に言っておかないんだよ! こっちにも予定っていうもんがあるんですよ!」


 ぷりぷりして、独り言を言ってる。

 私に怒っている訳じゃないのは分かっても、こういう状態ってあんまり好きじゃない。

 そして、こういう時は、お母さんの味付けも、なんだか濃い目になるし……。


 いつもお父さんは、私に対して「報・連・相っていうのは大事なんだぞ!」っていうくせに。

 自分が一番出来てないじゃん。


 飲み会が決まったら、すぐ連絡すればいいだけなのにね。

 何でだろうね。

 まったく。


「しかも、今日は何の日だか分かってるのか、アイツは!」


 ……あ、そうか。

 今日って、11月22日。

『良い夫婦の日』ってやつじゃない?


 そうだ、そうだ。

 お父さんとお母さんの結婚記念日でもあるんだよね。


 あちゃー、お父さん……。

 盛大にやらかしてますよ……。


 私は知らないよー。

 お父さんが帰ってくる前に、夕飯食べ終わって、自分の部屋に行っちゃおうっと。


 お母さんは、怒りながらも夕飯を作り終わった。

 しっかり、お父さんの分も作って、ラップまでしていた。

 お母さんって、優しいな。


 私は、お母さんの怒りを治めるべく、そして早く食べ終わるために手伝いをした。


「ありがとうね、美樹みき。あなたは、旦那になる人はきちんとしつけないとダメだよ?」

「しつけるって……」


 相当、お怒りなのだろう。

 なんだか、今日の夕飯は、辛めの匂いがする気がするな……。


 お父さんのバカ……。



 ◇



 早速食べ始めたのだが、辛くて中々食べ進めない。

 早く部屋に戻る計画だったのに……。


「こういう時は、辛いのっておいしいわね!」

「う、うん」


 きっと私は、お母さんに良くしつけられているんだろうな。

 それでも、お母さん好きだから、良いかなって思うけれども。


 うぅ。辛い……。


 そんな食べてる途中で、玄関の方から音がした。


「ただいまー!」


 あれ? お父さんの声だ。

 帰ってくるの、いつもと同じくらいの時間じゃない?


 なんだろう……。

 飲み会がなくなったのかな?


 リビングに入ってきたお父さんは、すごく笑顔だった。


「お母さん。僕と結婚してくれてありがとう」


 リビングに入ってくるなり、そんな一言。

 私は耳を疑いましたよ。

 お母さんも、口を開けたまま、首をひねって不思議そうにしていた。


「今日は、結婚記念日じゃん? サプライズのケーキを買ってきたよ!」


 お父さんの手には、有名なケーキ屋さんの大きな箱があった。

 お母さんは、驚いていた顔が、段々と笑顔になっていった。


「え、覚えてたの?」

「もちろん!」


 お父さんは、策士だ。

 お母さんのことを何でも分かっているんだな。


 わざと怒らせるように仕向けて、辛い物を食べさせておいて。

 これから食べるケーキは、多分いつもよりも数倍美味しいに決まってる。


 お父さんって、そういうところがある。

 にこにこ笑っちゃって。

 まったく……。


「お父さんって、お母さんのこと何でもわかるんだね」

「そうに決まってるじゃないか。お母さんのことが大好きだからね」


 お父さんがそう言うと、お母さんはにやける顔をこらえて、鼻をひくひくさせていた。


 私の親ながら、子供っぽい人達。

 なんだかんだ、二人共、良い夫婦だよね。


「お父さん、早くお風呂入って来て。ケーキ食べるよ!」

「はい!」


 そう言いながらも、二人で隣の部屋に行っちゃうし。

 仲良くするのは、私が寝てからにしてくださいよ、もう。



 ……まったく。


 私も、こんな夫婦になれたら幸せなんだろうな。


 良い夫婦の二人。

 そんなお父さんお母さんが、私は好きかもしれないです。

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