骨なしチキン
午前中で授業が終わる日もある。
今日は、先生たちが学校外で教育があるらしい。
先生になっても、教育されるんだね。
いつまでも勉強されてて、偉いことです。
先生たちが勉強する時間には、私たち生徒は休んでいるわけでして。
こんなことじゃ、将来思いやられるって思われたとしても。
たまの休みくらい良いじゃないと。
誰に言い訳するでもなく、帰りの支度をしているわけです。
「今日さ、駅前のチキン屋さんが安いらしいんだよ! みんなで食べて帰らない?」
うきうきと話しかけてくる
私も、チキンって美味しいから好きなんだよね。
久しぶりに食べたいなーって思って、二つ返事で「いいよ」って返した。
そのあと学校を出て、帰り始めたのだが、なぜか美弥子の彼氏と、そのお友達もついてきてた。
「大勢で食べる方が、美味しいと思って!」
私からしたら、あまり面識のない二人。
そんな中で食事をしても、楽しいのは美弥子だけかもですよ。
まぁいいか。安いらしいし。
「チキンってさ、やっぱり骨までしゃぶるのが美味しいよな」
美弥子の彼氏の
わかる一って心の中では思いつつ。
人見知りな私は、頷くしかできないわけです。
美弥子の彼氏っていうのは分かってるけれども、ちょっとカッコいいし。
なんだか打ち解けるのは難しい。
……って。
ちょっと待って。
もしかして、これって結構危険なのではないでしょうか。
三橋君の言う通り、チキンって言ったら、骨にしゃぶりつくのが醍醐味。
それって、私が骨にしゃぶりつく様が、みんなに見られてしまう。
チキン屋さんだと、向かい合ったテーブルに座って、チキンをしゃぶることになるのです。
そんな姿は、親密になった間柄の人だけにしか見せられない姿。
これは、究極にピンチ……。
私は、チキン屋さんにつくまで、どうしたら回避できるのか、頭の中がぐるぐると回っていた。
ポテトだけを食べるとか。
ダイエット中って言いながら、サラダだけ食べるか。
うー……。
どうしょう……。
そんなことを考えていると、駅前のチキン屋さんについてしまった。
もう、諦めるしかないか。
食べ方で、育ちが出るというのか。
別に潔癖症ってわけじゃないんですけれども、ちょっと抵抗がある。
見るのも、見られるのも。
ちょっと汚い感じで見られそうで。
恥ずかしいな……。
注文をするために並んでいる三橋君が、こちらを向いて話しかけてきた。
「
期待を込めた声。
そう言われてしまうと、否定が出来ない。
好きではあるんだけれども。
「そうだね。私もチキンかな」
「おいおい、三橋。みんなで食べる時は、骨なしが良いんじゃね?」
隣に並んでいた三橋君の友達、
「カップルだったら良いけどさ。ちょっと抵抗あるぜ、やっぱり。骨食べてる姿は」
ずけずけモノを言うタイプの一之瀬君。
金髪で、ピアスも開けてるから、少しヤンチャな雰囲気があったけど。
人のことを気遣ってくれる一面もあるんだ。
意見を言ってくれた一ノ瀬君の横顔を見ていると、こちらを向いて笑いかけてきた。
「骨なしチキン。それって、俺にぴったりだって思わない?」
自虐的な洒落のつもりなのかもしれないけれど、一ノ瀬君は臆病な人には全然見えなかった。
これも私を気遣っての言葉なのだろうな。
なんだか、嬉しいな。
「……そしたら、私は一之瀬君と同じ物食べたいな」
私がそういうと、一之瀬君は笑ってくれた。
「早紀ちゃんも、分かってるね」
少しおどけて話す一之瀬君。
人見知りで、あまり話さなかった私のことも、気にしてくれてるみたい。
隠してるつもりでも、私の言いたいことも全部分かっちゃってるんだろうな。
その上で知らないフリをしてくれて。
気を使ってくれて。
……もし、そうだとしたら。
一ノ瀬君には、骨を食べてる姿は隠さなくて良かったかも知れないな。
「ありがとう、一之瀬君。私、食べる人に気を使ってくれる、骨なしチキンの方が好きだよ」
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