良い息

 今日はとても良い日。


 朝から晴れていて。

 空気もすごく澄んでいて。


 少し風が強いが、南風って天気予報で言ってた。

 風は冷たくなくて、暖かさを感じる。

 それが、とても気持ちが良かった。


 私は中学校へ行く時は、自転車を使う。

 学校の決まりだから、しっかりとヘルメットを被る。

 ヘルメットで通学するって、ちょっとかっこ悪いって思ってたけど、最近は被る人も多くなってるから、抵抗は少なくなってきた。


 自転車に乗る時は、マスクはしていない。

 そこまでしなくても大丈夫だって、お母さんが言ってくれたから。


 良し、出発しよう!

 私は一度自転車をこいで、家を出発する。


 清々しい風が吹き抜ける。

 季節感が無くなってきているけれども、空の高さを見ると秋だなって感じる。

 晴れってやっぱりいいな。


 車どおりは少ない道を、ゆっくりと走っていく。

 速すぎると危ないからね。


 信号は、ちゃんと止まる。



 ――チリンチリン。



 信号で止まっていると、後ろからベルを鳴らされた。

 後ろを振り向くと、彩乃あやのだった。


 私の隣まで自転車を進めてくると、ニコッて笑った。


「今日は、朝練無いんだね」

「今は、テスト休みだよ。流石にこの時期は、私も勉強に集中しているのです」


 いつもは、陸上部の朝練で早めに行くけれども。

 今綾乃に言った通り。

 テスト期間の学生は、勉強が第一です。


博美ひろみが、しっかり勉強しちゃうとさ、全然追いつけないんだよね。今日一緒に勉強しようよ」

「いいよ。私が教えてあげるよ」


「ありがとっ! やっぱり博美は良い友達だよ」


 綾乃は、一緒の部活なんだけどね。

 短距離か、長距離の違いで、成績なんて変わらないと思うんだけど。

 長距離走るメンバーの方が、何故か成績が良かったりするから不思議。


 短時間で勝負することに慣れちゃってるのかな?

 私なんかは、一番長い時間かけて走る競技だからね。

 毎日少しづつ頑張ってる。



 信号を渡ってからは、綾乃と一緒になって学校へ向かった。


 学校への道のりは、そんなに距離は無いのだけれど、最後に急な登り坂がある。

 学校に行くには、その坂を登らないといけない。

 学校は、少し小高い丘の上にあるのだ。


 坂の入口へ近づくと、自転車を降りて押していく人達もちらほら見える。

 この坂は、結構な難所。

 女子なんかは、歩いている人しかいない。


 私達、陸上部員でも、登り切れるのは数人しかいないかも知れない。

 ここは、ちょっと気合い入れないといけないよね。


 私と綾乃は顔を見合わせる。

 二人でいる時は、どちらが登り切れるか競争をするのだ。


 私は深呼吸をした。

 新鮮な空気が肺に入ってきて、気持ちがいい。


 綾乃に向かって頷いた。


「いくよ、よーいドン!」



 私と、綾乃の坂登り。

 何度かやっているから、知っている人も多くなってきた。

 坂を上っていると、坂の途中を歩く人から、「頑張れー」って応援される。


 返事をしたり、手を振ったりする余裕はないから、頷くだけの反応になってしまうけれども、すごくありがたい。

 この応援があるから、私は頑張れるって思うよ。


 坂を登ると、鼓動が速くなる。

 学校は近くに見えると思っても、どこまでも遠くに感じられる。


 私は、登り切れるのかなって。

 たまに、諦めちゃいそうになるけれども。


 隣に綾乃がいるから、頑張れる。

 勝負をしているけれども、一緒に走ってくれる仲間。


 弾む息は、まだ色付いていないはずなのに。

 体温が上がったからか、吐く息が少し白く見えた。


 とても良い息。

 私は、それも含めて、全部好きだ。

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