将棋
ここは、将棋部の部室の前。
部室棟の一階。
廊下の突き当りにひっそりとある部室。
すごく静か。
音楽系の部活とは違う文化部の部室棟って、なんだかミステリアスな雰囲気が漂ってる。
部屋の中からは、たまに、パチっていう音が聞こえる。
将棋の駒を打つ音だ。
いつも、部室に入るときは緊張する。
左腕についている、『新聞部』の腕章が曲がっていないか位置を調整する。
「ふぅ」
秋の文化月間っていうことで、新聞部の部活動として文化部を毎日回っている。
今日は先輩もいないから、私一人なんだよ。
先輩がいても緊張するっていうのに……。
先輩が学校来たら、お昼ご飯奢ってもらおうっと。
「よし、行こう」
覚悟を決めて、将棋部の部室をノックする。
――コンコン。
「失礼します」
返事がないので、おそるおそる入ってみる。
将棋部の部室の中には、椅子と机が綺麗に並べられていた。
机の上に将棋盤を乗せている。
それぞれの机の横には、目覚まし時計のような四角いタイマーが置いてある。
各々ちょうど試合をしているところのようだった。
みんな真剣な表情で、こちらの事は見向きもしなかった。
……うう、気まずい。
こういうのって、真面目に部活やってる人の邪魔者なんだよね。
それは自覚しているのですけれども。
そうは言っても、これが新聞部の私の部活動だからね!
インタビューしないと。
もじもじしていた私のところへ、一人の男子がやってきた。
「こんにちは。もしかして、入部希望者ですか?」
眼鏡をかけた小柄な男の子。
一年生なのかな?
けど見たこと無い顔。
「あ、あの。私新聞部の者でして」
私が答えると、男の子は少し考えたような顔をしたが、すぐに納得したようだった。
「なるほど、そうでしたか。それであれば、好きに取材してください」
やっぱり将棋部の人だと、頭が良いのかな?
スムーズに話が進む。
それも、物腰柔らかで話が通じそうな人。
まずは、この人にインタビューしてみようかな?
「あの、少し聞いていも良いですか?」
「はい、どうぞ」
「あなたは、なんで将棋部に入ったのですか?」
男の子は、少し驚いた顔をして、こちらを見てきた。
けど、笑って返してくれた。
「結構、投げやりな質問をしますね。将棋が好きな人しかこの部活にはいないです」
そりゃそうか……。
私、何にも考えられていないな。
どうしよう、どうしよう。
何か質問しないと……。
「こういう時は、どういう活動をしているかを聞くのがベターだと思います。あなたの思った質問を少し変えて、『将棋のどういったところが好きか』とかを聞くのも良いと思いますよ」
この男の子、物腰は柔らかいけど、芯をとらえたような返答をしてくる。
すごいな。
将棋をやっていると、先が読めるようになるのかな。
男の子は、私に返事をすると、少し遠くを見て考え事をしているようだった。
もしかして、今自分で言った質問の回答を考えているのかな。
それであれば、すごいです……。
私もしっかりと考えた質問を考えなければ。
……うーんと。
……えーっと。
「時には、最後まで考えきれなくても、飛び込んでみるのも良いと思いますよ。自分の直感を信じる。それも将棋の良さです」
私が考えていると、男の子は話を続けてくれた。
「あらためて考えると、最初のあなたの質問は意外と一手だと思います。僕が将棋部へ入った理由が一番記事としてふさわしいかもしれないですね。僕は、将棋部の部長をやっている者でして。将棋部へ入った理由は、もちろん。将棋が好きだからです」
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