良い石

 キラキラしてる綺麗な石。

 何か力を秘めてそうなオーラをまとった石。

 そういうのを見つけると、私はついつい拾っちゃうんだ。


 今日も通学路で綺麗な石を見つけた。

 小学校高学年にもなって、道端の石を拾うなんてちょっと恥ずかしいんだけど。

 ついつい拾ってしまう。


 石に惹かれてついつい手が伸びて。

 少しかがんで拾ってみる。

 石は、手に取ってみると少し重い。


 拾ってからそれを空にかざしてみると、綺麗に光っていた。

 やっぱり石って、綺麗だよなー。


 そんな私の姿を、厄介な男子に見つかってしまった。

 小川君は、私の元へと歩いてきて、聞いてきた。


「大石、何拾ってるの? 六年生にもなって道端の石なんて拾ってるの?」


 ……そうなるよね。

 こうやって、からかわれるから、いつもは周りに人がいないか見てから拾うけど。

 今日は注意を怠ってしまった。


「私は、石が好きなんだもん! いいでしょ! これすごく綺麗なんだもん」

「綺麗だからって、石ころ集めても、何の価値も無いじゃん」


 小川君は、そんな捨て台詞を言って、走って学校の方へと向かった。

 綺麗な石だから、私はこの石と巡り会えたことに後悔は無いけどね。

 学校へ着くと、案の定小川君が石の事を言って騒いでいた。


「石なんて、何の価値も無い。0円だぞー」つて。


 別にいいじゃんって思うよ。

 私は、この石好きだもん。

 綺麗だもん。


 私の友達は小川君の言葉は気にせずに、石を見に来てくれた。


「確かに、この石、すごく綺麗だよ」

「いいなー、良く見つけたね。羨ましい」


 そういうことを言ってくれる子もいる。

 物の価値なんて、人に決められたくないもん。

 先生が教室へとやってきた。


「はーい。みんな一席につけー。なんだか、今日は騒がしいな? どうしたんだ?」


 小川君が率先して先生に言った。


「大石さんが、道端で拾った石を大事そうにしてたからです。石に価値なんて無いと思うんです」


 私は何も言い返せなかった。

 というか、言い返したくなかった。


 言っても聞いてくれないだろうし。

 先生が、不思議がって私の方へとやってきた。

 それで、私が持っている石を見つめながら言った。


「先生が、その石を見てあげようか。これでも、先生の前職は宝石鑑定をしてたんだぞ。どれどれ」


 先生は、ポケットから虫眼鏡のようなものを取り出すと、石を光に当てながらくるくると回して眺めていった。

 先生の真剣な表情の傍らで、小川君が茶々を入れてくる。


「先生、やっぱり道端の石なんて、価値ないでしょ?」

「いや、これは、本当に良い石だ。翡翠ひすいって聞いたことあるか? あれの原石だ」


 先生の言葉に、小川君は若干うろたえた。


「え? こんな石に価値があるんですか……?」

「そうだ。これはなかなかお目にかかれない、良い石だ。大石、返すよ。これ、大事にするといいぞ」


「道端の石でも、そんなことあるのか。見つけたの、すげえな、大石」


 小川君が私に向かってそう言ってきたが、私は言い返さなかった。

 先生から石を返してもらうと、すぐにポケットへと締まって何事もなかったようにした。


「よかったね。やっぱり良い石だと思ったよ」

「小川君は、ちゃんと謝りよね!」


 友達の方から、小川君に言い返してくれていた。


 私は、良い石だってわかって私も嬉しいけれど。

 私はこの石が宝石とか、そういうことはどっちでも良かった。


 誰かが決めた価値観に踊らされるなんて、そんなのはカッコ悪いって思う。

 私は、そういうのを気にしない大人になりたいって思うよ。


「先生、ありがとうございます!」


 私が笑って答えると、先生も優しい笑顔で返してくれた。


 私が良いって思えば、例え世間から価値が無いって言われても、それは良いものだもん。

 誰がどんな評価をしたとしても、私はこの石が大好きだ。

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