焼き芋

 ほっかほかの焼き芋。

 落ち葉の中で焼いて、そこから出来たてを取り出して食べる。

 それをすることに、とっても憧れがある。


 お母さんに聞くと、昔はよくやってたらしいけれども。

 最近は、近隣住民の事も気にして、焚火っていうのもできないらしいんだよね。


 公園での手持ち花火も禁止されちゃったし。

 それと同じ理由で、焚火も禁止されているらしい。

 火は危ないんだって。


 流行り病も過ぎ去ったっていうのに。

 色々と外でできるようになったのに、焼き芋だけは認められないなんて。

 焚火って憧れるなー。


 夏から、秋をスキップして冬になったような窓の外を眺める。

 一気に寒くなったからか、落ち葉も大量に落ち始めていた。

 あれを使えば、焚火もできるのにな……。


「……大会をするぞ」


 ぼやっとしてたら、先生の言ってることを聞き逃しそうになってしまった。

 今の私には、しっかりと耳に入った。


「先生っ! ‌焼き芋大会って言いましたか!?」


 先生は、笑って答えてくれた。


「そうだ。今度の月曜日にやる」

「でもでも、焚火って禁止されてるんじゃないんですか?」


「もちろん。焚火って言うのは、危ないから勝手にやってしまうのは絶対にダメだ。けれども、しっかりと許可を取ってやる分には大丈夫だ」

「そうなの?」


「そうだ。禁止って言われて、そこで諦めちゃう人もいるけどな。自分が本当にやりたいことがあれば、どうすれば出来るかを考えて、それに向けて努力する。そうすることで叶えられることもあるんだぞ」


 そう言う先生の事が、私は輝いて見えた。

 先生は、スーパースターだよ。

 とってもカッコいい。


「やりたいことがあれば、どんな困難も乗り越えるんだぞ!」


 先生の笑顔から覗く歯は、本当に輝いていた。



 ◇



 先生は、近隣のゴミ掃除をすることで許可をもらっていたようだった。

 その時に一緒に落ち葉を集める予定らしい。


「社会貢献にもなって、いいだろ」って言ってた。

 やる気のない生徒も多かったけども、先生は笑いながら一緒にゴミ掃除を手伝ってくれた。


 寒いのに、半袖姿の元気な先生。

 顔とか、恰好じゃなくて。

 私は、先生の考え方がすごくカッコいいって思う。

 私も掃除、一生懸命頑張ろうっと。


 そうしていると、先生から声をかけられた。


古川ふるかわは、みんなより頑張ってるな! ‌偉いぞ!」

「もちろんです。先生が教えてくれたんですよ。一生懸命頑張った方が楽しいし、そのあとの食事も美味しいって」


 先生は、少し鼻を膨らませて、ゆっくりと口が横に開いていった。


「あっはっは。先生の言ってたこと覚えているな。古川は優等生だ」


 楽しそうに笑う先生。


 焼き芋の皮みたいな、紫色のジャージがよく似合う。

 それで、中身はアツアツな熱血系。


 たまに、甘いことも言うけれども、ちゃんと芯が通ってて。

 そして、芯まで熱がこもってる。


「古川は、大人になってからも、やりたいことをやるんだぞ! ‌先生みたいになっ!」


 そう言って、豪快に笑う先生。

 傍にいるだけで暖かい存在。

 本当に、焼き芋みたいな先生だよ。


 私の中での、先生のあだ名は『焼き芋先生』。

 笑っている先生に、私は答えた。


「先生、頑張って掃除して、美味しい焼き芋食べましょう! ‌私、焼き芋が大好きです」

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