かりんとう

 遠足っていうやつが、雨で中止になりまして。

 本日は学校で授業。

 やるせないですよね。


 やると思っていたことが、急に無くなるとショックが倍になって。

 せっかく持ってきたおやつは、家に帰ってから食べることになるのかな。

 残念です。


 おやつさんも、外で食べられたかっただろうに。

 しょうがないから、私が部屋の中で美味しく食べてあげるからね。

 供養、供養。


 そう思っていると、学活の時間におやつパーティをしようということになった。

 先生の優しい恩恵に感謝。

 運がよかったことに、このおやつ達は日の目を見られるのです。

 ふふふ。


 遠足じゃないけれど。

 やっぱりおやつは、交換して食べあうのが楽しかったりするよね。

 みんなにも、私のおやつを分けてあげようかな。

 私の、かりんとうちゃん。


「えーー。原田君のおやつ、かりんとうなの?」

「なんだか、おじいちゃんみたいー!」


 ……えっ?

 ……かりんとうって、おじいちゃんみたいかな?


 奇遇にも、原田君もかりんとうをおやつに選んでいた。

 隣の席で、がやがやと人だかりができていた。

 ちらっと覗くと、黒っぽい塊があった。

 かりんとうのこと言ってるんだよね。

 あんなに美味しそうなのに、みんなからは、そうやって言われちゃうんだ。


 マジですか……。

 私もかりんとうなのに、そんなこと言われている横で、私のかりんとうは出せないな。

 これは、おやつを持ってくるのを忘れたことにするしかないかな……。


「いいだろ。かりんとうって美味しいじゃん」


 原田君がみんなに反論した。

 原田君って、怒りっぽいもんね。


 そんなこと言われたら怒っちゃうよね。

 そう思って原田君の方を向くと、別に怒ってるわけでもなく、優しい笑顔でみんなを見ていた。


「これ、美味いんだよ、騙されたと思って食べてみてよ」


 原田君が怒らないなんて、珍しい。


「俺もさ、最初はかりんとうなんて、じいちゃんっぽいなって思ってて。けど、食べたらわかったんだよ。これはものすごく美味い」


 原田君が柄にもなく、優しい笑顔でそんなことをいうから、みんなはちょっと躊躇していた。

 なんだか、逆に怪しいなって。


「じゃあさ、北川。ちょっと食べてみてよ」

「……え、何で私なの」


 原田君は私のことを指名してきた。

 なんでだろう。

 私のこと、おばあちゃんみたいって思ったのかな。


「お前もかりんとう好きなの知ってるからさ。これが美味しいか食べてみて欲しい」


 ……あれ? なんかバレてるみたいだ。

 袋から出してなかったけれども、パッケージ見られちゃったのかな。

 パッケージ見ただけでかりんとうってバレてたのか。

 原田君すごいな……。


 せっかくなら、食べてみるか。

 黒い塊。

 そして、なんだか光っている。


 この見た目では、これが美味しいって、中々思わないよね。

 原田君に私のおやつをバラされないうちに食べちゃおう。


 原田君のかりんとうを一口で食べる。


 ――カリッ。


 結構な硬さがあったが、私の歯でも割れるくらい。

 口の中で割れると、左右に分かれたかりんとうから、甘さが溢れてきた。


「……美味しい」


 原田君は満足そうに笑った。


「そうだろ? 俺のお気に入りのかりんとう」


 原田君なら、わかってくれるのかな。

 私のかりんとうの味も。


「あのさ、原田君。私のおやつと交換して欲しいな」

「もちろん、俺もそっちのかりんとうを食べてみたいし」


 あぁ。大きい声で。

 バラされちゃうか、結局……。


 私は、口の前でシーって黙ってとジェスチャーをしたが、原田君は話を続けた。


「北川、大事なのは見た目とかじゃないんだよ。中身が大事だし、それが分からないやつには好きに言わせておけば良いよ」


 私が美味しいって言ったから、みんな原田君とおやつの交換を申し出始めた。

 ちゃんと言えば、みんな気付いてくれるんだ……。


 原田君と、周りの友達は楽しそうに、かりんとうを交換して食べあってる。

 とても楽しそう。



 私も原田君みたいに、堂々と自分の好きなものを言ってみたいな。

 見た目とかじゃなくて、周りからどう思われるとか気にしてるんじゃなくて。

 恥ずかしがらずに……。


 私も原田君に向かって話しかけた。


「原田君、ありがとう。私も、かりんとう、大好きだよ!」

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