良い靴

 この世で一番信頼をしているのは、自分の足。


 私は、道が続いていれば、どこまでも歩いて行ける自信がある。

 例え道なんて無くても、クライミングだってできるし。


 いつか私は、『ウルトラマラソン』っていうのに挑戦したいんですよね。

 中学生でも挑戦できるっていうところで、今はトライアスロンの練習をしている。

 それもこれも、お父さんの影響だったりする。


 私のお父さんは、近所の人からは『鉄人』って呼ばれたりしてる。

 町内会のお祭りとか、運動会とか、色んなイベントに参加して誰よりも働くの。

 凄く体力がある。

 体力お化けだよ。


 いつもお父さんは、会社に行く前には、近所を10Kmくらいランニングしている。

 季節に関係なく、朝早く起きて。

 それを毎日続けてる。


 私は、そんなお父さんに、ちょっと憧れてたりして。

 お父さんは、そんなにまでしてることにちょっと呆れつつ。

 かくいう私も、最近お父さんと一緒に走るようになってました。


 立冬を迎えて、朝は真っ暗。

 吐く息はまだ白くないものの、十分に寒い。


 ジャージを着て、父さんと家の前でストレッチをしてから出発する。


「しっかりと、準備体操しないとな。この季節は寒くて筋肉が硬くなりやすい。怪我しやすいから、入念にストレッチしないとな」


 私とお父さんは、ゆっくりと足の筋肉を伸ばしていく。

 この朝のストレッチをしてると、今から朝を迎えるぞって気分になる。

 一日が始まったなって。

 一通りストレッチすると、お父さんが声をかけてくれる。


「よし、じゃあ出発するか」

「うん」


 最初はゆっくりだけど、徐々にスピードを上げていく。

 最終的には、お父さんはすごく速い。


「涼しい朝って、気持ち良いよな。……って、うわっ、なんだ?」


 お父さんの走るのがゆっくりになったかと思うと、止まってしまった。


「ありゃ……。壊れてしまったか……」


 お父さんの靴が真っ二つに割れてしまっていた。

 どうやったら、こんな風に壊れるんだろう。

 靴の裏がはがれるとかならわかるけれども、横側がばっくりと開いている。


「はは、こんな風に壊れちゃうなんてな。こりゃあ買い替えが必要だな」

「どんだけ履いたのよ、この靴」


 お父さんが走れなくなったから、私も今日のランニングはやめて、歩いた。


「お父さんの靴を買うついでに、里奈りなも一緒に買ってやろうか?」


 そう言われたけれど、この靴は私のお気に入りだったりする。

 一緒にランニングを始めようって時に、お父さんに買ってもらった靴。

 お父さんとの思い出も詰まってる。


「私は大丈夫だよ。この靴をまだ使い続けたいんだ」

「そうか? そろそろ買い替えないと、お父さんみたいに壊れちゃうかもだぞ?」


 お父さんは心配してくれるけれど。

 靴を見ても、まだまだ走れるって言ってるみたいに見える。

 そんな力強さを感じるんだ。


「お父さんの靴はさ、壊れるまで使ってもらえたから、きっと靴も大満足だよ。私もこの靴をそこまで使い込みたいんだ」

「そうなのか?」


 お父さんは少し不思議がったけれど、私の真剣な顔を見ると、和やかな表情をした。


「そう言えば、お父さんが買った靴だったな。大事にしてくれてるんだな」

「うん」


 私は、この靴が好き。

 この丈夫な靴が好き。

 走りやすいし、お父さんと走った距離が詰まってるって思う。

 お父さんが買ってくれた靴。

 この靴は、最高に良い靴だと思う。壊れても家に飾っておきたいくらいに。

 私の大好きな靴。

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