立冬

 最近まだ暑いけれども、暦の上では立冬らしい。

 冬が始まるらしいんだ。


 紅葉だって、まだしてないんじゃないかな?

 これで冬なんて、ちょっとおかしいかもなって思ったりする。

 けど、少しだけ冬を感じたりもする。


 バスケットボール部は体育館でやってるから、外の明るさって部活が終わるまで全然分からない。

 けど、毎日少しずつだけれども、日が暮れるのは早くなってきている。

 部活が終わる時間帯には、すっかり真っ暗。

 そして、夜になると、流石に寒い。


 部活帰りに、バス停で待つのがつらい季節がやってきている。

 それは、日に日に感じてる。


 一緒にいるりんも寒そうに体を揺らしている。


麻衣まい、ちょっとさ、今日手袋見に行かない?」

「いいよ、付き合うよ」


 凛にそう言われて、私たちは部活帰りに街中へと向かった。


 学校からバスで最寄り駅まで来る。

 いつもは、そのまますぐに電車に乗っちゃうんだけれども、今日はお店のある方へと向かった。


 この前まで、ハロウィンをしていたと思ったら、もうクリスマスムードが出て来てていた。

 そんな街中を歩くだけでも、冬が始まったんだっていう気分になってくる。


 凜は、手にハァハァと暖かい息を吹きかけながら、クリスマスムードの街を楽しそうに見ていた。


「冬って、なんだか良いよね。一年のクライマックスって感じがして。十二月が近づくだけで気分盛り上がるよ」

「けどさ、冬っていうと、一年の始まりでもあるんだよ。一月も冬だし」


 私がそう答えると、凛は笑って続けた。


「それもまた、良いよね。どっちも楽しめちゃうし」


 凛は笑いながら、私の前を歩いて行く。

 広場には、大きなもみの木が飾られていた。


 まだ飾りつけはされていないけれど、こういうのを見ると、やっぱり冬が近づいてるなって思う。

 凜の気持ちがたかぶるのも確かにわかる気がする。

 すたすたと、もみの木の前まで行くと、もみの木を見上げて嬉しそうだった。


「私はさ、今から冬が始まるっていうところが一番好きかもな。これから楽しいことがいっぱい始まるぞーっていう感覚。私、大好きなんだ」


 楽しそうにしている凜を見ると、私まで楽しくなってくる。

 凛の隣によると、凜はスマホを取り出して自撮りをしだした。


「冬が始まった記念に、一枚だよ」


 楽しそうにしてる、私と凛の笑顔。

 凜と過ごすのも、二年目の冬だ。


「今年は、部活の大会もあるし、期末テストもあるし。冬休みまでノンストップだね」

「うん」


 凜は、何か思いついたような顔をして、こちらを見てきた。

「そうだ! 今年はさ、お揃いの手袋を付けない? バスケで突き指しないようにさ。麻衣も手を温めよう」


 そう言って、私の手を握る凛の手は、とても冷たかった。


 心が温かい人は手が冷たいって、よく言うけれども。

 凜の心は、温かいんだろうな……。。


 こんなに楽しそうな凛と過ごせるなら、冬という季節も良いって思える。

 私も、冬が大好きだよ、凛。

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