湯たんぽ

「あああああ……」


 私は、なりふり構わずにトイレに駆け込んだ。

 お腹が痛い。すごく痛い。


 なんでだろうな……。

 今日の給食は、カレーライスを食べたんだけど、それが悪かったのかな。

 それとも、昨日の夜に食べたアイスクリームが原因なのかな。

 どっちにしても、私は今、苦しんでいます……。

 トイレから出られないよ……。

 誰か助けて……。


梨紗りさ、大丈夫? 」


 ドアの外から、心配そうな声が聞こえた。

 この声は、美咲だ。


 今日は一緒に帰ろうと約束していたのに、チャイムが鳴るなり、私がトイレに閉じこもってしまったから。

 ごめん、美咲みさき


 私は、声を出そうとしたけど、痛みでうまく言えなかった。

 美咲は、ドアをノックして、また声をかけてきた。


「梨紗、どうしたの? お腹痛いの?」


 私は、個室の中でうなずいた。

 美咲から、私の姿が見えないのは分かっているけれども。


 美咲は、私の名前を呼んで、心配してくれている。

 優しいな、美咲……。


 美咲に謝りたいけど、今は何も言えない。

 美咲は、しばらくドアの外で待っていてくれたが、声を出さない私のことを心配して、先生を呼びに行ってくれた。


 先生が来て、私をトイレから出すと、おぶって保険室へ連れて行ってくれた。

 美咲も一緒についてきてくれた。

 ……ありがとう、美咲。



 ◇



「梨紗ちゃん、お腹の調子はどう? 」

 保健室の先生が、私に聞いてくれた。

 私は、少し楽になったけど、まだ痛かった。


 先生は、私のお腹を触って、温度を測って、薬を出してくれた。

 お礼を言うための声も出ないなんて、こんなに痛いなんて、初めて。


 先生は、私にベッドに横になるように言って、毛布をかけてくれた。

 毛布はとても暖かくて、気持ち良かった。

 私は、毛布に包まれて、少し眠ってしまった。



 ◇



「梨紗ちゃん、起きて。お母さんが迎えに来たよ」


 私は、目を覚ますと、保険室には、先生とお母さんと美咲がいた。

 お母さんは、私の顔を見て笑ってくれた。

 美咲も、先生も、優しく笑って見守ってくれている。


 みんなに感謝の言葉が言いたいんだけれども、今は何も言えない。

 お母さんは、私を抱き上げてくれて、保健室を後にした。


 そのまま、外に止めてあった車に乗せて私は家へと帰った。


 家に着く頃には、段々と良くなってきて、かろうじて声は出せるようになってきた。


「お母さん、迎えに来てくれてありがとう」

「大丈夫だよ。大丈夫そうで良かったよ」


 そのまま、私は家でも寝かされた。

 お母さんは、優しく布団をかけてくれる。


「こういう時はね、お腹を温めると良いんだよ」


 そう言って、暖かい湯たんぽをくれた。

 私は、湯たんぽに抱きついて、布団の中で転がる。


 美咲も、先生も、お母さんも。

 みんなとっても暖かい。


 そのみんなの暖かさが、私を元気にしてくれるみたい。

 みんなの暖かさが、全部詰まったような湯たんぽ。

 私は、湯たんぽって好きだな。

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