11月

「犬と猫どっちが好き?」


 青田あおたさんが、私に向かって、ニコニコしながら聞いてきた。

 私が答えないでいると、青田さんはずっと待っている。


 こういう質問って、あまり好きじゃないんだよね。


 犬も猫も、どちらも好きだし、どちらかを選ばなければならない理由もない。

 でも、青田さんはそういう二択の質問が好きなんだよね。


「休日何してた?」とか、「好きな色は何?」とか、そういう質問もしてくるし。

 そういう質問も苦手なんだよね。


 答えが一つじゃないし、答えても何も変わらないし、答える必要があるのかもわからないって思っちゃう。

 でも、青田さんはそういう質問で私と仲良くなろうとしてくれているんだ。



 青田さんは犬みたいに人懐っこいんだよね。

 誰とでもすぐに打ち解けて、笑顔で話しかけてくるし。


 一方、私はというと、人見知りで、話題が思いつかなくて、一人でいることが多い。

 でも、青田さんはそういう私を気にしないで話しかけてくれるんだ。



 もっと言うと、青田さんは犬みたいに従順なところもある。

 先生や先輩や親に言われたことは素直に聞いて、反抗もしないでやってしまう。


 私はそういう人を尊敬すると同時に心配するんだよね。

 自分の意見や感情を押し殺して、他人の期待に応えようとしているんじゃないかと。

 でも、青田さんはそういう自分を悪く思わないで楽しそうに生きているんだ。



「ねぇねぇ。犬と猫どっちが好きかな?」


 青田さんがまた聞いてきた。

 どう答えたものか考えてしまって、私は答えられなかった。


 素直に、「どっちも好きだよ」って言えばいいかも知れないけど。

 それでは青田さんを満足させられない気がしたし……。



「他の動物が好きなのかな? じゃあさ、私と一緒に動物園行こうよ」


 青田さんが提案してくれた。


「動物園……?」

「うん。犬も猫も見られるし、他にも色々な動物がいるし。楽しそうじゃない?」


 青田さんは目を輝かせて言ってきた。

 青田さんは、動物が好きらしい。


 私は、あんまり動物園に行ったことがない。

 あんまり良さが分かってないけれども、

 でも、青田さんと一緒に行くのなら別だった。


 青田さんが、楽しそうに動物たちと触れ合っている姿を見たかったし。

 青田さんは動物の知識もありそうだから、私に色々と説明してくれるかもしれなかった。

 ……ついでに言うと、青田さんと手を繋いで歩けるかもしれないし。


 私は青田さんに頷いた。


「いいよ。動物園、行こう」

「やったー! じゃあ、明日の午後からどう? 予定ある?」


「ないよ。明日の午後で大丈夫だよ」

「じゃあ、決まりだね。待ち合わせは駅の改札口で。12時にね! 楽しみだなー。じゃあ、また明日ね」


 青田さんはそう言って、私に笑顔で手を振って去っていった。

 青田さん楽しそうだったし、私も楽しみだな……。



 私は、その後ろ姿を見送って、心の中で小さくつぶやいた。


 青田さんって、犬みたいだよ。

 犬と猫で言ったら、私は、やっぱり犬の方が好きだよ。

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