ハロウィン

「ハッピーハロウィーン!」


 そんな声が教室に溢れている。


 もう、そんな季節ですね。

 時間の流れは早いものです。

 まだまだ、暑い日だってあるのに。

 今週末は、夏日だって、天気予報で言っていたよ。


 それなのに、ハロウィンだって言われてもね。

 ハロウィンって言ったら、晩秋だよ。

 やっと秋が始まったっていう気分なのにさ。



 そんな私とは裏腹に。

 教室のみんなは、ささやかな仮装を楽しんでいた。

 中学生なので、もちろん制服を着ているのだが、ヘアピンにカボチャがついていたり。

 こうもりのアクセサリーを付けていたり。


 楽しそうにしているクラスメイトを、ぼーっと見ていた私のところに、美紀みきがやってきた。


「ハッピーハロウィーン!」

「その髪飾り可愛いね、ハロウィーン!」


 いつも一緒にいるメンバーも集まってきて、そう言い合う。

「「ハロウィーン!」」



 私たちの中で、ハロウィンって言ったら、バレンタインデーと同じ感じ。

 彼氏なんていない私達は、仲間内でお菓子の交換会をするっていう日になっているのだ。

 いたずらなんて無い。


 そう言うのも楽しそうだなって思うよね。

 教室の隅の方では、彼氏彼女の関係にある人たちが、こそこそと教室を出ていく。


 ……はぁ。

 ……私にも、勇気があればなぁ。


「えーっ! お菓子持ってきてないの?」


「えへへ。忘れちゃった。明日持ってくるから、ゴメン!」


 美紀は、少し呆れながらも、笑って答えてくれる。


「いいよ、いいよ。みんな持ってるから、それを食べよ!」


 みんなで、お菓子を食べると美味しいよね。

 ハロウィンって、もともと収穫祭だしね。

 こうやって、お菓子を分け合うのが、本来のハロウィンの形かもな。

 ふふっ。甘いものって幸せだな。



「ハッピーハロウィーン! トリックオアトリート!」


 私の前の席で、大屋おおや君がそう言っていた。

 カッコいいけど、ちょっとお調子者なんだよね。

 大屋君って、ハロウィンとか好きそうだな。


「お菓子をくれたから、じゃあ俺もあげるね!」


 大屋君も、お菓子の交換をしているみたい。

 男の子と、お菓子を交換するっていうのも、楽しそうだよね。

 けど、私には、関係ないか。


 そう思っていたら、大屋君と目が合った。

 こちらへ近づいてくる。


渡辺わたなべさん、ハッピーハロウィーン!」


「……あ、はい。大屋君も、ハッピーハロウィン」


 大屋君は、うきうきした顔で手を出して待っていた。

 これは、お菓子を求めてるんだな……。



「ごめん、私今日持ってきてなくて……」


 大屋君は、一瞬残念そうにしたが、また明るい顔に戻った。


「渡辺さんは、しょうがないなー。じゃあ、これを上げるよ」


 小さな小箱のお菓子をくれた。


 大屋君、優しいな……。

 交換じゃなくても、お菓子くれるんだ。


 初めて、男子からのプレゼントだよ。

 嬉しかったので、すぐに開けてみた。



 ――ピャアーー!


「うわーーっ!」


 箱の中から、いきなり何か飛び出して来たから、大声が出てしまった。


 私がびっくりしていると、大屋君は笑っていた。



「良いリアクションありがとう。みんなお菓子くれるからさ、このイタズラできる人がいなくてさ。渡辺さん良かったよ、ナイス!」


 大屋君からのびっくり箱。

 ちょっと恥ずかしかったけど。


 ……これはこれで楽しいかもな。


 ちょっと乗り遅れちゃったけど、ハロウィンってやっぱり楽しいね。

 私、この行事は面白くて、好きだな。私、大屋君にもらったビックリ箱を使って、誰か驚かせようかな?

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