リラクゼーション

 最近、とっても忙しい。


 文化祭の準備に、テスト勉強に、部活の大会もあるし。

 人生の中で一番忙しいんじゃないかってくらい。

 もう、てんやわんやです。


 誰か私に癒しをくれーって思うよ。


 方角を決めて、祈ると良いのかな。

 十月は『神無月』っていうし、神様が出雲大社に集結しているらしいから、島根県の方角を向けば良いのかな。

 私に、癒しをー……。


 窓の外へ向かって祈っていても、教室にいる人たちは、皆手いっぱいで私を見ていない。

 人知れず祈り終わって、現実に帰ってくると、私の机の上には折りかけの鶴がある。


 ……はぁ。

 これをあと何羽折れというのか。


 放課後の教室では、クラスのみんなで文化祭の準備作業をしている。

 今日は部活が休みだからいいけれど、これが終わったら、テスト勉強が待っているし。


「ああぁー、もう疲れちゃったよーー!」


 なんだか、すべてを投げ出したい気分。

 全部忘れて、ぱーっと遊びたいよー。


 折りかけの鶴を机に置いて、椅子にもたれかかって伸びをする。

 教室の後ろの壁が見えるくらいのけぞると、そこに飯塚いいづかさんがいた。


「お疲れ様、明石あかしさん。疲れが溜まっているねー」


 ……はっ。

 いけない、いけない。

 気を抜いてしまった。

 誰も見てないと思って。


 姿勢を直して、飯塚さんの方へ向くと、ニコニコと笑ってくれていた。


 おとなしめの性格の飯塚さん。

 あんまり目立たない子だけど、人当たりも良くて、意外と人気者なんだ。


「飯塚さんこそ、お疲れ様です。いつもいつも文化祭の準備にいるし、授業中だって真面目に聞いてるし」

「そんなこと無いよ。これでも、気を抜くところは抜いてるんだよ? 古文の授業なんて特に」


「あー、古文の授業。あれって、先生が黒板書きしてるだけで、あてられないもんね」

「ここだけの秘密だよ?」


 飯塚さんは、自分の口に人差し指をあてて、可愛らしく笑った。

 そんなポーズを、わざとらしくなく、自然とできるなんて。

 私もそういう女の子になりたいな。

 可愛い……。


「明石さん、疲れているみたいだから、私がマッサージしてあげるね」


 そう言うと、飯塚さんは私を机へ向かせて、後ろから肩を揉み始めた。

 柔らかい手付きだったけれども、凝っている部分を的確に押していくので気持ちいい。


「飯塚さん、すごく気持ち良いよ。プロっぽいよー」

「私さ、こういうの得意なんだよね。よく、おじいちゃんの肩を揉んだりしてたんだ。これやると、お小遣いをいっぱいくれるんだよね」


 いたずらっぽく笑う飯塚さんは、やっぱり可愛い。


「こういう、頭のマッサージもあってね」


 肩のマッサージをした後、今度は私の頭を両手で締め付けてきた。

 締め付けても、痛みは無くて、むしろすごく気持ちよかった。


「体の凝りだけじゃなくて、心身ともにリラックスできるようにすることを、リラクゼーションって言ったりするんだよ」


 なんだか、そういうお店に来ているみたい。

 これは、おじいちゃんもお金払っちゃう気持ち、わかるなぁ……。


 一通りリラクゼーションが終わると、飯塚さんは私の前に回り込んできて、首をかしげて聞いてきた。


「どうだった?これで、疲れ取れたかな?」


 あぁ、これは、文句なしの百点満点だ……。


「ありがとう、すごく気持ちよかった。頭のマッサージ……、じゃなくて、リラクゼーションっていうのかな? とっても気持ち良かった。初めてやられたけど、あれ好きになったよ。私、飯塚さんの分も頑張っちゃおうかな!」

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