和服

 私の姉は、衣服の学校に通う大学生で、イケイケの感じだ。

 いつも奇抜な恰好をしているけれども、最近は和服にハマっているらしい。

 出かけるときは、和服を着ていることが多い。

 いつもの奇抜な恰好に比べてたら、和服を選んでいることは良いなって、私は思ってる。

 なんだか、上品っぽく見えるし。

 自分の姉ながら、ちょっと綺麗に見えるし。


 姉は、着物や浴衣や甚平など、色々な種類の和服を持っている。

 ちょっと、私も着てみたいなとも思っていた。


 そう。

 思っていたんですけれども。


「今日さ、一緒に浴衣を着てお祭りに行こう! 私の貸してあげるからさ」


 そんな姉の一言から始まった。

 ちょっと良いなって思ってたから、そんな姉の提案に対して、私は二つ返事で了解してしまった。

 その時、もうちょっと考えれば良かった。

 誰でもない、私の姉からの誘いだっていうことを……。


 ◇


 浴衣を着て、つれていかれたのは、なんだか怪しげなクラブだった。

 お祭りって言うから、盆踊りとかするような、夏祭りみたいなのを想像していたんだよ。

 せめて、和風を想像していたんだけれども、現地で行われていたのは、『パーティー』な方の祭りでした。


 暗い地下の部屋で、DJの人がアゲアゲな音楽を流していた。


 たまにピカピカと光って、中にいる人が見えたが、みんな和服を着ていた。

 男の人は、甚平なんか着たりしていた。


「……お姉ちゃん、これって何祭りなの?」

「今日は、『和服祭り』だよ?」


 姉はケロっとして、当たり前のように言う。


「その『和服祭り』の概念が私には無いもので……、それを教えて頂きたい……」

「何で、急にあらたまって? いつも週末にやっているDJナイトが、今日は和服指定なだけだよ。たまには、こういうところに妹でも連れてきてあげようと。姉の優しさだよ!」


 そう言われてみれば、姉はこういうところが好きだったんだ……。

 けど、和服着てやるとは思わないじゃん……。

 なんだか動きにくそうだし……。


 そう思っているけれども、ホールでリズムに乗っている人たちは、ノリノリで動いていた。

 意外と、動けるものなんだ?


「和服ってさ、意外と機能性が良かったりするんだよ。暑くなりにくいし、意外と動けるんだよ? 可愛い柄も多いし、オシャレでしょ?」

「まぁ、オシャレだとは思うけれども……」


 そうは言っても、なんだか不思議な世界に来たみたい。

 未来の盆踊りみたいな……。


「せっかく来たんだからさ、一緒に、アゲテいこうー!!


 ――ププププー!


 DJの人が、音を鳴らしている。

 姉に手を引かれ、ホールの中の方に行かされた。

 急に行って何をしろって感じだったけれど、他の人を真似して体を動かしてみたら、意外と楽しい……。


 暗くて、人も見えないし、みんなが同じことをしていると思うと、恥ずかしさも少し和らいだ。


「なんとなく楽しいけれども、和服でパーティする必要はあるのかな、これ?」


 私がそう聞くと、姉ははっきりと答えてくれた。


「和服でやるからこそ、アガるでしょ? 私、和服大好きだもん!」

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