褒めて伸ばす教育

 図工室には、高学年の作品が飾られている。

 木の枝が複雑に絡み合っていて、木の実も張り付けられている。

 ところどころ、絵の具でカラフルに塗られている。

 赤、青、オレンジ、黄色、ピンク、白。


 その作品を横目に通り過ぎて、図工室へと入る。



 今の季節は、芸術の秋っていうらしい。

 私はあまり聞いたことが無かったけれども、秋は芸術に適しているらしい。


 秋は何をやるにしても良い時期ってことだよね。

 そんな今日の図工は何をやるんだろうな。

 さっきの作品みたいな、謎オブジェを作るのかな……?


 先生が図工準備室から出てきて、話を始める。


「今日はですね、みんなでスタンプを作ってみましょう!」


 ……謎オブジェじゃなかった。よかった。


 スタンプっていうと、絵柄がついているあれ。

 それを作るって、楽しそうだな。


「彫刻刀を使って、彫ってもらいます。これが例として作ってるスタンプです。平らな面に、溝を掘って作ります」


 先生が見せてくれたスタンプは、既に疲れた後で、絵が赤くなっていた。


「溝を掘った部分が、色がつかなくなる部分です。この線の部分ですね。平らなままとした部分が、色がつく部分になります。こんな風にして絵を彫ってみてください」

「「はーい」」



「どんな色を付けるかも、考えながら掘ってみてくださいね」

「「はーい」」


 私は、どんな絵にしようかな。

 どうしようかな……。


「しかもですね、今日彫るのは、このサツマイモを使います」

「「おおー」」


 なんだか、面白そう!



「どんなスタンプでも良いですよ。好きなもの作ってみてください」

「「はーーい!」」



 各々出前に置いてあったサツマイモを取って、自席で掘り始める。


 好きなものを彫っていいんだ。

 どうしようかな。

 とりあえず、彫刻刀を使って削って削って。

 間違えたら、その部分を切り落とせばやり直せるって言ってたし。

 どんどん彫ろうっと。


 残した部分に色がつくって言ってたからね。

 周りを削れば良いんだよね。


 よいしょ、よいしょ。



 ◇



 ……うーん。

 彫り始めてみたけど、なんだかわかりずらいな。

 緑を掘っていけば、すぐに何かわかるけれども。

 残していくってなると、なかなか最終系が見えづらいよね……。


 一気に削りたいから、この平らな彫刻刀を使おうかな。



「それ、ダメだよ! 危ないよ!」


 隣の席のじゅん君が注意してきた。


「え、これダメなの。綺麗にできると思ったのに……」

「少しづつでも、正確に削れるから、細い方が良いでしょ」


 うー。怒られちゃった。

 ダメだったのか。


 淳君の声を聴いて、先生がやってきた。


「そういう怒り方は、良くないと思いますよ?この平らな彫刻刀は使っちゃいけないって、なんでそう考えたんですか?」

「だって、大きいの使うって、ずるじゃん」


 淳君は、先生から目を背けながら、そう言った。


「淳君はそう考えたんですね。けど、彫刻刀の種類があるっていうことは、何か使い道があるということじゃないですか?」

「……それはそうかもだけど」


「ずるっていうんじゃなくて、明君も使ってみよう? 今も上手いけれど、もっと違った上手い作品ができるかもですよ」

「じゃあ使ってみよう。俺なら、紗良さらよりも良い作品ができるぜ!」


 先生は、うんうんと頷いていた。


「紗良ちゃんは、平らな彫刻刀を使おうと思ったんですよね。自分の思うようにやってみてください」

「はい、先生ありがとう」


「先生は、褒めて伸ばす派ですから。好きな発想でやる方が、みんな違った良さが出て良いと思いますよ」


 優しいな、先生。

 これで、好きに彫っていける。


「紗良さん、ちなみに、これは何を彫っているのかな?」

「猫さんです。私、好きなの猫さん」


「良いですね。そうしたら、平らな彫刻刀で掘ったものと、違う種類の彫刻刀で彫ったものと。何個もつくてみてもいいかもですね」

「うん!」


 私、先生の優しい話し方が好き。

 先生が言ってくれるのって、『褒めて伸ばす教育』っていうんだね。

 私、それ、好き!

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