フラフープデート

 輪が右に行くと、すぐに腰を左へと、ひねる。

 その反動で、輪は左へと投げ出されるような形になるが、そうしたらまた腰をひねって、右へと戻す。


 前から見ると単純な動きに見える。

 ゆらゆらゆらゆら。

 そんなに大きくも動いていないし。


 なぜだろう。


 ひねって、ひねって。

 腰の周りに輪っかがくるくる。


 何で回るのか、原理が分からないな……。



「行くよ、行くよ? こういうこともできるんだよ」


 そう言って、ちょっとだけ動きが変わった。

 些細な違いだと思う。

 動きに違いなんて、言われなきゃわからないくらい。

 なのに、輪は上に上がっていく。


「えー……。なんで上に上がるの……」

「俺は、フラフープマスターだからね」


 優希ゆうき君は、一息ついてフラフープを手に持って止めた。


 いつも幼稚な遊びが好きだと思っていたけれども、フラフープまで守備範囲だったとは……。

 フラフープは女児の遊びではないかと思うんですよ。



 学校帰りに一緒に帰っていたら、公園で遊ぼうと、また誘われて。

 秋の公園って、寒いんだよ。

 遊んでいる子供達も少ないし。


「寒い時に遊具で遊ぶとかできないじゃん、鉄冷たいよ」ってツッコミを入れたんだけど、優希君は「良いか良いから」って言って私の手を引いて公園に来たのだった。

 それで、フラフープやっているところを見せつけられている今でございます。



「最近のフラフープってさ、分解と組み立てができるんだぜ」


「へぇ」という言葉しか出なかった。

 フラフープは女児が遊ぶか、もしくは主婦がやるダイエットの一つくらいの認識。


 中学生男子が、恥ずかしげも無く公園でフラフープをするなんて。

 そんな奴と、つるんでいるなんて……。


 優希君、顔はカッコいいんだよ。

 なんで、こんな幼稚な遊びが好きなのかな。


「良いだろー。俺、フラフープめっちゃ上手いでしょ」


 優希君が、一人でフラフープを回す姿を眺める。

 正直、私はあまり面白く無い。

 見てるだけってむしろ寒いし。

 それだったら、カラオケとか行きたいな。

 優希君歌もめっちゃ上手いのに……。


「あれ? 美緒、つまらなそうだね?」


 優希君が、ニヤニヤして近づいてきた。


「一緒にやる?」

「……いや、大丈夫だよ。優希君楽しんでるし、借りるのは申し訳ないよ」


 一応、優希君の立場を立てておかないと。


「大丈夫。そんなこともあろうと。もう一個持ってきてるんだ!」

「……はぁ」


 溜息に似たような、返事しかできない。


「一緒にやろうぜ!」


 優希君、爽やかです。

 そして、良い声です。


 秋の高い空に負けないくらい、清々しい。


 なのに、なぜ彼は、幼稚なのか……。


 もっと別の事をやるときに、聞きたかった一言だよ……。

 フラフープ一緒にやろうぜって、そんな言葉を聞く機会があるなんて。


 優希君が鞄から取り出したのは、分解されたフラフープ。

 繋げることで、一つのフラフープになる。


 そこまでして、持ち歩きたかったのかと、問いたい。

 それも、何故か私用のフラフープはピンク色。


 ……うん。

 優希君なりの気遣いなんだろうね。

 女の子だから、ピンク色っていう。

 これは、恥ずかしさ倍増だよ。


 こんな時は、笑うしかないのかな。


「はははははは」

「おぉー! やる前から楽しそうだね! 持ってきて良かった! ははは!」


 一緒に笑い合った後、優希君は、ちょっと真面目な顔になって言ってきた。


「美緒、最近食べ過ぎて太ってきたって言ってたし、秋は太りやすいっていうから。こういうところから体を動かすと良いよ。美緒が健康になれるように!」


 ……優希君は、私の事を気遣ってくれているんだ。

 ちょっと嬉しけれども。ちょっと幼稚なんだよね……。


「恥ずかしがらずにやってみて! 僕が隣で回しててあげるから」


 優希君といると、いつでも童心に帰れるから良いのかな……。

 周りには誰もいないし、久しぶりに回してみようかな。フラフープ。


「どっちが長く回せるか、競争だよ!」


 優希君の、変にカッコつけないところが良いのかもな。

 フラフープデートって言うのも、悪くないかも。

 暖かくなるし。ダイエットも出来れば、一石二鳥。


「どう? 私も、ちゃんと回せてるでしょ」

「ははは、上手い上手い! 」


 なによりも、優希君といるのが楽しいのかもな。

 フラフープデートも、好きだよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る