キノコ

「きのこ、のこのこー」

「なんだか、朋子ともこ機嫌良いね、どうしたの?」


 私が陽気に鼻歌を歌っていると、みっちゃんが私の席にやってきた。


「みっちゃん、よくぞ聞いてくれました。今日はキノコ汁なんですよ」


 美味しい、美味しいキノコ汁。

 名前を聞くだけでよだれが垂れてくるようです。

 ああ、口の中が既に美味しい。


 催眠術みたいなものかもしれませんね。

 今日は寒くて、ちょっと長袖を着てきたんですけれども。

 半袖から長袖に衣替えをしたあたりから、多分始まってました。


 衣替えか、もう秋だなー。

 秋と言えば、食欲の秋。

 食欲と言えば、やっぱり給食であって。

 給食の私の好きなメニューと言えば。


 そうなのです、キノコ汁。

 今日はキノコ汁の日。


 ――じゅるじゅる。


「……ちょっと、朋子よだれ垂れてるよ。そんなにキノコ好きなの?」

「え、あれ、よだれが……。ごめんごめん。キノコのことを考えるとついつい……」


 垂らしたのが、私の机の上で良かった。

 さっき授業中に寝てた時も、よだれ垂れちゃってたかな。

 よだれの跡が何個も……。

 念入りに拭いておこう……。


「お見苦しい姿をお見せしました……。けど、みっちゃん、キノコってね、栄養もあって、種類もいっぱいあって、歯ごたえも種類によって全然違うし、全部美味しいんだよ。私キノコ好きで」

「そうだよねー。朋子ってキノコ好きそうな顔しているよね」


 ……うん?

 キノコ好きそうな顔っていうのは、誉め言葉なのかな?

 キノコが良い意味だから、そう言うことだよね。

 ふふふ。みっちゃんは遠回しに褒めるのが上手いです。


「え、阿部さんもキノコ好きなの?」


 そう話しかけてきたのは、マッシュルームカットの男の子、水谷君。

 私よりも少し身長が低くて、なんだか弟みたいで可愛い子。


「そう言えば、水谷君も、キノコ好きそうな顔していますよね! キノコ好きなんですか?」


 私がそう言うと、みっちゃんがなんだか渋い顔をしてた。

 キノコ好きそうな顔って、誉め言葉のはずなんですけれども……。


 水谷君も、表情が曇っていたが、パッと明るい顔になった。


「キノコ好きそうな顔? 僕がそう見えますか?」

「絶対好きそうだよ!」


「そうです。大当たりです。よくわかりましたね!」

「ふふふ。キノコ好きには同士が分かるもんだねー!」


 私と水谷君のやり取りを見て、みっちゃんはやれやれと首を振っていた。

 私と水谷君のキノコパワーが強かったんですかね?


「そうだ! キノコ好きとして、水谷君がどのキノコを好きか当てて見せますね」

「いいよー、当てて、当てて! 当てるのは、きっと難しいと思うよ」


 うーむ。水谷君の頭の形。

 マッシュルームを想像させますが、それはきっとひっかけです。

 一方で、難しいと思うよと言っている発言を気にすると。

 今日のキノコ汁に入っている、しめじとエノキも違いそうです。

 そんな安直では無いからこその『難しいと思うよ』という発言。


 それと同じ考えで行けば、誰でも大好きな『松茸』も除外されます。


 エリンギ、舞茸、しいたけ……。

 うーん、どれも当たってそうで、違う気がします。


 悩んでる私を見て、水谷君は話しかけてくる。



「キノコって良いイメージだけど、人によっては良くないイメージの人もいますからね。やっぱり当てるのは難しいと思いますよ」


 私には、良くないイメージなんて無いけれど。

 そう思っている人もいるのか……。


 みっちゃんの方を見ると、水谷君の言葉に頷いている。

 そういう考えもあるのですね。


 あまり良くないイメージ。

 じめじめしている、というところでしょうか。

 そうは言っても、それもキノコの魅力の一つ。


 ……あっ! そう言うことか。

 良くないイメージと思われているキノコの名前を出して、それが好きでしょって言うのは難しい。

 悪口っぽく聞こえてしまいますからね。


 やっぱり難しいと、あえて言うところが実はヒントなのですね。


 じめじめとしたキノコですね。

 もちろん、私も大好きです。


「水谷君、分かりました、あなたが好きなのは、ずばり『なめこ』です!」

「大正解ー! やっぱりキノコ好きには、わかっちゃいましたね」


「「はははは」」


 私と水谷君は、声を揃えて笑った。

 みっちゃんは首をひねって、理解できなさそうな顔をしていた。


 やっぱり、キノコ好きに悪い人はいませんね。

 私は、キノコが大好きなのです!

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