鉄道

 ――ガタン、ゴトン。

 遠くから、列車がやってくる。


 この音がいいんです。

 線路と線路の間に空いたスキマを車輪が通過する時に鳴る音。

 心地良いリズムで鳴る。


 線路は、鉄でできている。

 鉄というのは温度によって伸び縮みしてしまうのです。

 夏の暑い時期には、伸びて、

 冬の寒い時期には、縮む。


 線路が熱によって伸びることで変形してしまうと、電車は脱線する可能性が出てくるんです。

 それを予防するために計算された長さで間をあけられている。


 考え抜かれた設計によって、電車事故は大幅に減っているんです。



 ――ガタン、ゴトン。


 そのことを考えながら、あらためて聞く音。

 計算されて敷かれた線路から奏でられる音は、ずっと一定。


 この音は、人類の英知の音なのです。


 冬は線路の隙間が大きく、音が大きくて。

 逆に夏は、音が小さい。


 秋が一番綺麗に聞こえてきます。

 ……良い。



 耳で楽しんだ後は、目で楽しむんです。

 レールを掴んで、列車が進んでくる。


 白色の車体。

 今どきの車体は、みんな銀色に光ってしまってて。

 それもそれで良いんですけれども、無骨な鉄の塊を連想させてしまうんです。

 綺麗かも知れないですけど、やっぱり色付きの車体が至高


 正面にある顔がとってもキュート。



 手に持ったカメラから、車体を見つめる。

 ……可愛い。


 カーブを曲がりながら近づいて、勢いよく通り過ぎていく。

 この時の吹き抜ける風も気持ちいい。


 天気は良好。

 涼しい秋風が吹き抜ける。

 気持ちの良い季節になったなと、思います。

 趣味にも精が出るというものです。


 電車の最後尾まで堪能していたら、駅員さんが近づいてきた。


「あのお客様……。ホームの先頭で待ってても、ここには電車は止まらないですよ?」

「いえいえ駅員さん。そうじゃないんですよ。ここで見るのが一番良いんです」


「……はぁ、そうですか」


 駅員さんは、そう言うと去っていった。


「ねぇねぇ、お姉ちゃん。注意されてるじゃん。そろそろやめようよ」


 一人で楽しむって言ってたのに、妹が着いてきたいって言ったらしょうがなく連れてきたけれども、まだ電車の良さは分からないんだね、きっと。


「今のうちに堪能しておかないとなんだよ? この8000系は段々と廃車になってきてて。この白色が見れるのも今のうちだけですよ。見れるときに見ておかないと」

「そう言って、朝からず――っと」


「それはそうだよ、朝の8000系、昼の8000系、夜の8000系。どれをとっても違うわけで。晴れの日だって、曇りの日だって、雨の日だって。ぜーーーんぶ違うの!」


 妹が、もはや呆れているのは分かっています。

 まだ鉄道の良さがわかるには、若過ぎるんですよ。


 ……あれ、けど私が妹くらいの時は既に電車を追っかけてたな……。



「お姉ちゃん、本当に夜までいる気なの?」

「もちろん、私の秋のお楽しみだもん。私は、鉄道というものが大好きなのです!」

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