豆乳

 はぁー疲れたー。


 小学五年生にもなれば、クラブ活動なんていうのも始まってですね。

 私は、お友達みんなとバスケットボールクラブに入って、汗を流しているわけです。


 授業の後に体を動かすって、かなーりしんどいんですよ。

 その疲れた体で、家に帰ったらジュースを一杯飲む。

 これが至高なのです。


 朝一で、炭酸ジュースを冷蔵庫に冷やして来たんだ。

 私は策士ですね。

 こんなにも疲れることをあらかじめ予見してたんですよ。


 さてさて、至高の一杯を飲もうかな。

 冷蔵庫を開けて、扉横のジュースを入れた場所を探る。


 ……あれ、無い?

 私、朝ここに入れたのに。


 やっぱり無い。

 誰がどこにやったの?


 と、聞くまでも無いかも知れない。

 私のジュースを入れていた場所に、豆乳が入っていた。

 横に長い紙パックが、飲み物置き場を占領している。

 これは、絶対にお姉ちゃんの仕業だ。


 私のジュースどこにやったんだよー。

 そうやって冷蔵庫の中を探していると、階段を下りてくる音がした。


「おつ! ‌里帆、お帰りー! ‌冷蔵庫、あまり開けておくのは良くないから早く閉めなー?」


 声の主は、お姉ちゃんだ。

 犯人は、絶対お姉ちゃん。


「お姉ちゃん。私のジュース知らない?」


 お姉ちゃんは、私の後ろに回り込んで、開けている冷蔵庫から豆乳を取っていく。


「ああー、ジュース? ‌邪魔だったから、出しちゃったよ? ‌まだ開けてなかったみたいだし。そう言うのは、冷やさなくて良いかなって」


 お姉ちゃんは、食器棚から自分のコップだけ持って、リビングテーブルへと向かった。

 豆乳のせいで冷蔵庫から追い出されてしまった私のジュースは、冷蔵庫の横に置かれていた。


 一縷の望みにかけて触ってみる。

 ちょっとでも冷たかったら飲めるはず……。


 ……やっぱりぬるい。



「なんで、出しちゃうのよ! ‌学校帰ってきたら飲もうと思って冷やしてたのに!」

「そうだったの? ‌ごめんごめん」


 お姉ちゃん、悪そうにしてないし。

 こういうところ、私は絶対に似たくないところ!



「じゃあさ、代わりに一緒に豆乳飲もう? ‌コップ持ってきな。お詫びにお姉ちゃんの豆乳を分けてあげるから」

「えー。豆乳、美味しくないじゃん」


 お姉ちゃんは、笑って手招きしてくる。


「いいからいいから。騙されたと思って」


 他に飲むものも無いし、しょうがない。

 本当に騙されているだけだと思うけど、飲もうかな……。


 コップを持って、テーブルへと行った。

 姉の前の席に座ると、ニコっと微笑んで、私のコップに豆乳を注いでくれた。


 豆乳って、甘くないし、何がいいんだかなー……。


「里帆、そんな顔しないでよ。豆乳って、発育にいいんだってよ。女の子は特に」

「発育って何?」


「豆乳にはね、女性ホルモンと似た成分が入っているんだって。女性らしく、綺麗になれるんだよ」


 なるほど?

 お姉ちゃんが言うなら、本当かもしれない。

 肌は綺麗だしなー。


「それでね、毎日飲むのが良いんだよ。そしたら、お姉ちゃんみたいなグラマラスボディになれちゃうよ」


 お姉ちゃんは、自分で言うだけはあって、確かにグラマラスボディなのかもしれない。

 それって、豆乳のおかげだったんだ。


 豆乳って、良いのか……。

 なんか、心揺らいじゃうな……。

 飲んでみるか。


「……どう? ‌最近の豆乳って、甘くて美味しいでしょ? ‌私好きなんだ、豆乳! ‌これ飲み続けたら私みたいになれるからね! ‌里帆も、毎日飲みなね!」

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