ウインク

 可愛い衣装のアイドルが踊っている。

 集団でいたとしても、ちゃんと誰が誰だかわかるのにな。


 しば君ったらみんな同じっていうんだよね。

 ちゃんと、みんな違ってるじゃんね。

 髪型だって、衣装だって少しづつ違うんだからね。


 私の中では、寧々ねねちゃんが一番可愛いって決まってる。

 これは決定事項です。覆りません。



 激しいダンスが一息つくと、寧々ちゃんのソロパートがやってくる。

 歌う寧々ちゃんがズームアップされる。


「ここ、ここ、ここ! 見てて、見てて!」


 カメラから視線を外して歌う寧々ちゃん。

 会場へ向けて歌っているんだろうな。

 さすがプロです。

 わかっています。

 素晴らしいです。


 ワンフレーズ歌い終わると、ライブカメラに視線を合わせる。

 そして、ウインク。


「はあぁぁぁぁ。生き返るうぅぅぅぅ」


 寧々ちゃんはやっぱり、地球で一番可愛いよ。

 愛してる。

 あぁぁぁ、いいぃぃぃぃ。


 カラオケルームでのライブ鑑賞は、好きに叫べて良いよね。

 寧々ちゃんの最高のシーンを堪能できたので、一緒にライブ鑑賞をしていた芝君の方を振り向く。

 そうしたら、すごく興味の無い顔を向けられた。


「お前さ、見ろ見ろっていうわりに、テレビの前占領するのやめてくれない?結局何も見えなかったんだけど。あんまり見るつもりもなかったけど」


 そうか、いかんいかん。

 私としたことが、夢中になりすぎてしまった。


 芝君に、寧々ちゃんの良さを布教するつもりだったのに、ついつい楽しんじゃった。

 てへへ。


「ごめんごめん。じゃあさ、もう一回見ようか? ちょっと戻すね」

「いやいや、別に見なくていいよ。すげー楽しいっていうのは伝わってきたし」


 うーん。

 どうにかして、布教したいんだよな。

 どうしたらいいんだろうな。


「別に俺、寧々って子に興味ないしさ。……どっちかっていうと、それを見てるお前には興味あるけどさ……」


 うーん。困ったぞ。

 興味ないって言われちゃうとな……。



 私に興味あるというならば、私が寧々ちゃんを再現してあげれば、見てくれるのかな。

 きっとそれなら上手く行くはず。


「わかりました。そこまで言うなら、私が寧々ちゃんを再現しましょう!」


 芝君は、なんだか複雑な表情をしながら首をひねっていた。


 まだ、寧々ちゃんの良さがわかっていないからですよね。

 うんうん。

 わかってしまえば、もう離れられないのです。


 私は、少しライブの映像を戻して、激しいダンスのところから再生させた。


「ここからです!」


 私が画面の前に立って、芝君に向けて激しいダンスを踊る。


 おおー? 芝君、ちょっと表情変えてる。

 ちょっと照れてる。


 このダンスの良さが分かってくれたのかな?

 寧々ちゃんの良さが、やっと分かってきた感じですね。


 ここからがトドメです。

 激しいダンスが終わって、私は芝君から視線を外す。

 そして、ワンフレーズ歌う。


 それで、ココがポイント。

 芝君の方を向いて、ウインクをする。

 アイドルウインク。


 顔のパーツは全く動かさないで、片目だけを閉じる。


 決まった!


 寧々ちゃんを再現したくて、私がこれをどれだけ練習したことか。

 芝君を見ると、すごく顔が赤くなっていた。


 なんか目をそらしちゃってるし。

 ちゃんと見てたのかな?


「芝君、ちゃんと見てた? ウインクだよ、ウインク。私、ここのウインクがめっちゃ好きなんだ!」

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