お好み焼き
ジュージュー。
良い音のするお好み焼き屋さん。
疲れた時は、ここの店って決めてる。
すっごい美味しいんだもん。
「いらっしゃい!」
最近は、こいつが店の手伝いをしていることが多いんだよね。
今日も会っちゃったか。
まぁいいか。
「おっすー」
私から話しかける。
「おー!
そう言いながら、悠斗は席を案内してくれる。
店に入って、すぐ右手の窓際の席。
いつもここに案内される。
理由を聞いたら、回転が早い客はそこに案内する決まりらしい。
一人客だったり、お酒飲まないような客だとそこがお決まり。
そう聞いてから、案内されるより先に、私はその席に座るようにしてる。
それぞれの席に鉄板が備え付けられていて、自分で焼くようなお好み焼き屋さんだ。
「そうそう、塾帰り。もう疲れちゃったよ」
「お疲れ様!」
悠斗はそう言って、すぐに水を出してくれる。
私が来るのを予想してるんじゃないかって思うよ。
中学三年生の秋と言ったら、部活動はもう引退している。
こいつもそう。
だから店の手伝いなんてしてると思うんだけど。
大体の人が塾に通って高校受験に備えるけど、こいつの場合はスポーツ推薦ですぐ進路決めちゃったんだよね。
ずるいよなー……。
そう思って後ろ姿を眺めると、引き締まった体をしている。
部活引退したっていうのに、相変わらず引き締まった筋肉してるよね。
筋トレは欠かさずしているのかな。
そう考えれば、ずるくないか。
勉強じゃなくて、別の事を頑張ってたってことだもんね。
「店そろそろ締まるんだけど、いつものでいい?」
「それで、お願いしまーす」
私がそう言うと、すぐに豚玉セットを持ってきてくれた。
悠斗は店の奥に向かって呼びかける。
「おやじー! 今日の手伝い終わりでいい?」
「いいよ一、客もいないし」
そう言われて、悠斗は頭に巻いていたタオルを取ると、坊主頭が出てきた。
坊主だったら、頭にタオル巻く必要ないじゃんって、いつも思うんだよね。
髪の毛落ちないし。
「今日は勉強どうだった?」
「相変わらず順調だよ。私もすぐに追いついてやるんだから」
悠斗は、鉄板に油を垂らして伸ばす。
鉄板の上に手をかざして温度を確かめると、豚バラ肉を焼き始めた。
「まだ聞くけどさ、俺の行く高校、一般入試で入ろうとすると相当難しいぞ?」
「私が勝手に目指してるんだから、気にしないでよ。順調なんだから!」
悠斗が推薦をもらったのは、地元でも有名な私立の進学校。
スポ一ツ推薦と一般入試と、どちらもレベルが高い。
ずっと一緒にいたのに、こいつだけ別の高校に行かせるなんて嫌だもん。
「私が、受かったらマネージャーしてあげるから覚悟しておきなよ」
「なんだよ、覚悟って」
具材が混ざった液を、鉄板の上に垂らす。
ジュージューと良い音をたてて焼けてく。
「甲子園に連れてってくれるって約束でしょ」
「それさ、いつも言うけど、いつの話だよ」
私がこの店に来ると、こいつが基本的に全部焼いてくれる。
二つのヘラを使って、ひっくり返す。
何をやっても全部上手いんだよ。
いつも私は見ているだけ。
私って、本当はただのお荷物かもしれない。
「今日も上手く行ったぜ! ほらほら上手いだろ!」
けど、お好み焼きを焼いてる時も、野球している時も、私がそばで見ている時は、笑ってるんだ。
「俺が頑張る姿は、いつも近くで見てろ」って言ってたのに、忘れてるのかな。
相変わらず、汗すごいし。
あ、タオルはそのためだったのかな?
坊主でもカッコいいって、イケメンなんだよね。
「なんか俺の顔についてる?」
「何でもないよ、イケメンサンキュー」
「なんだそれ、思っても無いくせに」
悠斗が、取り分けてくれる。
ソースと、マヨネーズもかけて。
その上に、鰹節と、青のりをかけて、出来上がり。
これが美味しいんだよね。
「まぁ、お前も頑張れよな。先に行って待ってるからよ!」
私は、こいつの夢に乗っかってるだけかも知れないけどさ。
一番近くで応援したいんだよ。
お好み焼きみたいに、ちょっと焼けた肌してさ。
今でも毎日自主練してるんでしょ、きっと。
待ってないじゃん、どんどん走って行っちゃってるよ。まったく……。
「私もすぐ追いつくから。走って追いつくからね」
私がそう言うと、悠斗は少し笑ったけど、すぐにタオルで顔を隠した。
そのタオルを頭に巻いた。
新しく皿を出して、焼けたお好み焼きを自分の方にも取っていった。
「大丈夫! お前はすぐ追いつてくるって信じてるから」
「ふっ。なにそれ」
出来立てのお好み焼きはとても熱い。
二人で分け合って食べる。
「ここのお好み焼きってさ、すっごく美味しいよね。愛情でも入ってるのかな」
私がそう言うと、悠斗はお好み焼きを少し噴出した。
汚いなー。まったく……。
「ここのお好み焼き、私好きだよ。これからも、ずっと私に食べさせてね」
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