私は今まで、塾になんて通っていなかったんだけど、中二の夏に夏期講習に行ったのをきっかけにして、塾に通うようになった。


 私の親は教育にあまりお金をかけない性分です。

 私の家にお金が余り無いという理由も大きいけれど。


 親はよく「塾なんて高いんだから」って言っていた。

 だから今まで、塾に通うなんて一切考えたことも無かった。


 けど、夏期講習が無料だからっていうのに釣られて通うことになったんだ、

 あと、きっかけとしては、後藤ごとうさんが誘ってきたっていうのもあったんだ。



 学年で一番成績が良い後藤さん。

 私のお母さんも認識しているくらい。

 ママ友の間でも噂が広まっているらしいんだ。


 その後藤さんが夏期講習の時に私を塾に誘ってきた。


 塾が仕掛けたキャンペーンの一環かも知れないけれど、友達を紹介すると図書券がもらえるとかで。

 けど、後藤さんは色んな子を誘っていた訳じゃなかった。


 誘ったのは私だけらしくて、友達招待キャンペーンで貰らえた図書券も私に全額くれたし。

 後で聞いたら、「小松こまつさんと、一緒に勉強したかったから」って言ってた。



 後藤さんは、いつも私の隣の席で一緒に塾に通ってる。


「この問題は……、じゃあ後藤さん、答えてみてください」

「はい」


 すらすらと答えていく後藤さん。

 後藤さん、私と一緒に勉強したいと言っていたけれど、自分一人でも全然勉強できるのに。

 何で誘ったんだろうな。



「じゃあ、次の問題は隣の小松さん。答えてみてください」

「あ、はい」


 私も、すんなり答える。

 もちろん正解だ。


 私も、塾に通うようになって、後藤さんと一緒に勉強しだしてから成績がグングン良くなった。

 それを知ってから、お母さんは夏期講習以降も塾に通わせてくれている。

 お金ないって言ったのに。どこから工面しているのかな……。



 ◇



「それじゃあ、今日の授業は終わります。皆さんお疲れさまでした」


 塾が終わるのは夜も遅い。

 こんな時間まで勉強してたら、そりゃ成績も良くなるって思うよ。



「小松さん、一緒に帰ろう」

「うん、いいよ」


 後藤さんと帰るのも、日課になっている。

 秋の夜は、涼しいを通り越して寒くなってきていた。


 私と後藤さんは、歩いて帰る。

 夏期講習も終わって、私はなんで塾になんて通い続けてるんだろうなって思うよ。

 こんなに、毎日勉強、勉強……。


 後藤さんも、大変だと思うのに愚痴も言わないんだよね。

 すごいなって思うよ。



「小松さん、私ね。小松さんと一緒に塾に通えるようになって嬉しいんだ」


 そう言う後藤さん。

 塾に入るまでは、そんなに話したことなかったけれど、塾に入ってから学校でも話すくらい仲良しになった。

 せっかくだから、聞いてみようかな。私を塾に誘ってくれた理由……。


「後藤さんってさ、なんで私を塾に誘ってくれたの? 一人でも勉強できるじゃん?」


 後藤さんは、少し照れくさそうに答えてくれた。


「私ね。小松さんと一緒の高校に行きたいなって思って」


 後藤さんの志望するのは、県でもトップレベルに頭のいい公立高校。


「私なんかと勉強しなくても、合格できるよ、後藤さんなら」

「違うの。私は小松さんと一緒にその高校に行きたいなって思って」


「へ?」

「小松さんの成績も良くなれば、一緒の高校に行けると思って」


 後藤さんにそんな思いがあったとは、知らなかった。

 今では仲良くなったけれど、私と一緒に高校に行きたいってどういうことなんだろ……?

 まぁ、成績良くなって、お母さんも私も後藤さんも。

 皆が幸せなら良いか。


「じゃあ、私も後藤さんと一緒の高校を目指そうかな。せっかく塾にも誘ってもらったし、成績も上がってきたし」



 私がそう言うと、後藤さんは嬉しそうに微笑んでくれた。


「ありがとう。一緒に頑張ろうね。私、小松さんと通える塾って、とても楽しくて、前よりも好きになったんだよ。小松さんのおかげ。ありがとう!」

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