ハイレモン
学校帰りに、家の近くのコンビニによる。
自動ドアの前に立っても、ドアが開かない。
無表情で扉の前に立ち尽くす私。
後ろから来たお客さんも不思議そうに眺めている。
常々、私っていう人は、反応しづらいらしい。
後ろのお客さんは、首をかしげながら近づいてくる。
今日はコンビニが空いてないのかなと、中を覗き込もうとして、私の隣くらいまで来ると自動ドアが開いた。
「あら、開いてるじゃない」
そう言って、コンビニの中へと入って行った。
ちゃんと開く自動ドア。
そう。
私は、反応しづらい女。
開いたドアをしばらくぼーっと眺めていた。
こういうことことが結構ある。
何回あろうとも、やっぱりへこむよね。
私という人間は、認識されていないんだろうか。
コンビニへ入ると、よく挨拶される人がいる。
「いらっしゃいませー」っていう風に。
私が入っても、それをされたことが全くと言っていいほどない。
さっき自動ドアを開けたお客さんは挨拶されていたのにな。
私には無いのか。
大きく心を削られることは無くなったけれども、待ち針を刺しておくクッションみたいに、自然と私の心に刺さる。
チクチクと、痛い。
こんな私でも、精一杯生きてるんですよ。
コンビニの奥へと行って、お弁当売り場を眺める。
今日の夜は、一人で食事をしないといけない。
お父さんは出張で、お母さんは残業するって言ってたから。
高校生にもなれば、自分のご飯の面倒くらいは見れる。
別に、親から愛されてないってわけじゃない。
そう言う日もあるっていうだけ。
あまり食にこだわりはない。
一番安いお弁当を持って、レジへと向かう。
先に並んでいる人がいたので、間をあけて後ろへと並んだ。
二台あるレジ。
その二つが終わったので進もうとすると、私が並んでいる横をすっと追い越して、おばさんがレジへと進んでいった。
「あの、並んでるんですけれど」
おばさんには、私の声も届いてなかったみたいで、レジの人も特に注意することも無くおばさんの会計が進んでいった。
まぁいいか。
急いでも無いし。
なんで、私の存在を気づいてくれていないのかな。
前の人との距離を開けようって、地面に線まで引いてるんだよ。
私はそのルールを守って、線に並んでいるのにな。
こんなものだよね。
気にしないようにしないと。
「ちゃんと、並んでて偉いね」
後ろから声が聞こえた。
振り向くと、身長が高い男の子がいる。
誰だろう。
知らない人。
けど、ありがたいことに私のことを認識してくれてるらしい。
そう言う人には、ちゃんとお礼をしないと。
「ありがとうございます」
私の言葉に、男の子は驚いていた。
「なんで敬語なんだよ。俺だよ。真嶋だよ」
はて、真嶋?
「真嶋秀人だよ」
秀人。うーん。
私の知り合いには、そんな人いないような。
「幼馴染を忘れちゃったの?ひどいなぁ」
「あ! ひーくん!」
思い出した。
幼馴染のひーくん。
身長大きくなりすぎでしょ。
ちょっと大人っぽくなってるし。
「認識した?」
「うん」
「まったく、反応薄いなぁ」
苦笑いをするひーくん。
そうやって笑うところを見ると、鮮明に思い出してきた。
私はよくひーくんを困らせて、苦笑いさせていた。
「ごめん。私、反応薄くて」
「謝らないでよ。昔みたいに元気でいなよ。元気が無いと誰も気づいてくれなくなっちゃうよ?」
元気にか。
私元気なく見えるのかな。
「これ、奢るよ。好きだったでしょ」
ハイレモン。
私の好きなお菓子。
……ちゃんと覚えていてくれてたんだ。
「柑橘系って元気出るからね!」
「ありがとう、覚えててくれて。……今でも好きだよ、ハイレモン」
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