大縄跳び

 クラスの中でも長身の二人が、長い縄を持って回し始める。


 天気は秋晴れ。

 こんなにさわやかな陽気は一年通しても、今日以上の日は無いかもしれないという爽やかな日。


 縄が地面に着くたびに、グラウンドの砂利が少し巻き上げられる。


 なんだか砂利も楽しくて、踊っているように見えます。

 しかし私はというと、きっと周りに爽やかさを全て吸い取られてしまったような。

 じめっとしたナメクジみたいな状態でございます。


 中学生にもなって、大縄跳びをするとは思いもしなかったんです。

 なぜこうなったのかというと。

 遡る事、今朝の朝会です。

 スポーツの秋だから、みんなで体を動かそうって担任の田島たじま先生が言い出して。


 文化部の人だろうと、全員でやる。

 みんなで汗をかいて、スポーツの良さを知ろうって。

「全員が縄に入った状態で、三十回跳ぼう」って。


 いつの時代でしょうかと思いました。

 今の時代に、中学生の昼休みの自由を奪い取ってまでするのかと。


 見ている分には、スポーツってとっても好きなんですよ。

 スポーツ観戦って楽しいですし。

 熱い気持ちも私にはありますし。

 縄跳びだって、いっぱい跳べている人はカッコいいって思いますし。


 小学生の頃だと、誰が最後まで跳び続けられるかーって、体育の授業で競ったりしてました。

 私はというと、もちろんすぐにひっかっかっちゃう方の女子です。

 あまりうまくないんですよね。

 運動神経がある子は、男の子でも女の子でもモテモテです。


 最後まで残った子は、みんなから拍手を送られたり。

 女の子が勝ったりした場合は、女の子から賞賛されて。ちやほや。

 男の子からは、どうやったらそんな上手くなるんだーって、対抗心を燃やされて。ちやほや。


 どちらにしても、ちやほやされてたんです。

 そういう世界もあるんだなって。

 縄跳び上手い子って、羨ましいなーって思ったりしてました。

 すごくカッコいいと思いますし、自分でもやれたらいいなって思います。


 そうやって見ている分には良いんですよ。

 実際にやるとなると、話は別なのです。


 私は、絶対にできない。

 中学生になったら、さすがに縄跳びっていうものから解放されると思っていたんです。


 熱血教師で有名な、田島先生。

 少し前映画でやっていたバスケットボールの映画の音楽を流して、みんなを鼓舞しています。


「君たちならできる!」


 クラスのみんなはひょいひょいと、大縄跳びに入っていきます。

 大縄跳びって、私苦手です。


 いつ入ればいいの。

 上へ行って、下へ行って。


 いつ走り出せばいいの。

 どこで跳べばいいの。

 頭が大混乱です。


 一定のリズムだけれども、変則的。

 等速運動じゃないんです。

 縄が下に行くときが一瞬早くなって、べちんと地面にあたる。

 縄が上の方に行くにしたがって、ゆっくりになる。

 かと思うと、下におろすときに加速していって、また、地面にべちん。


 冬山で、べちんべちん頬を殴られているみたいです。

 私は、もう眠ってしまっても良いでしょうか。


小山こやまさん、難しく考えてなくて大丈夫だよ」


 古川ふるかわ君が、後ろからそう言ってくれた。


「状況ばかり見ていると、いつまで経っても始められないものだよね。そういう時は、思いっきって飛び込んじゃう」

「……私も飛び込みたいですが、できなくて。……もしひっかかっちゃったら」


「大丈夫。かするくらいじゃ、止めないように縄も回してくれている。あの人たちは敵じゃなくて、味方なんだよ」


 身長の高い二人。

 一生懸命縄をまわしている。

 とても力強く。


 みんなも、それに答えるように跳び続けていた。


「失敗は怖くないよ。みんなも君が来るのを信じて跳び続けてる」

「でも、でも……」


「失敗したとしても、何度だって挑戦すればいい」

「それでも、やっぱり……」


「僕、先に行って待ってるから。君自身の足で飛び込んで来て!」


 そう言って、古川君が縄に入って行った。

 古川君は跳び始める。


 私が最後の一人。

 私も、跳びたい。


 そう思っていると、縄をまわす速度が段々とゆっくりになっていった。

 古川君も、くるっと180度回ってこちらを向いてくれた。


「大丈夫。君なら出来るよ」


 ……私にだって、できる。



 思い切って飛び込んだ。

 そうすると、古川君が私の手を握ってくれた。

 跳ぶタイミングを見計らって私の手を上へ引いてくれる。


 私も跳べた。


「1、2、3……」


 みんな入ったところで、数を数え始めた。

 ゆっくりのペースを守ったまま。


 これなら跳べる。

 古川君もずっと手を握ってくれる。



「……28、29、30!」

「「やったー!!!」」


 ……出来た。

 クラスのみんなも、喜んでいる。


 古川君は私の手を握ったまま言う。


「どうだった? 見てるだけじゃないって、楽しいでしょ?」

「……そうかもしれないです」


 ……ちゃんと言わないとですね。

 失敗しても良いから、飛び込まないと。


「私、好きになりました。大縄跳び!」

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