アイドルのダンス

 もうすぐ体育祭がやってくる。

 体育祭の出し物っていうのは、なんでなのか決められているのだ。


 一年生はアイドルのような恰好をしてダンスをするのが、うちの学校の伝統。


 ……謎ですよね。


 謎なのです。



 二年生は、一年生のためにアイドル風ダンスの振付を考えたり、アイドル衣装を作ったりする。

 学年を越えて、一体になって作り上げていくのが、体育祭の出し物のアイドル風ダンス。


 中学生の頃に高校見学で見に来た時に憧れてて。

 すっごく可愛いなーって。


 見学の時にちょうど、体育祭の練習やってるのを見かけて。

 可愛い子達のダンスが見れたんだ。


 その時、『私、絶対この高校に行こう』って思ったの。


 高校入る前から、ずーーっとやりたかったけれども。

 憧れだけじゃ、どうにもならないこともあると、今痛感しているところであります。


 私には、ダンスの才能が皆無でございました……。



 二年生の先輩が一生懸命振付を教えてくれる。


「腰をね、こうやって横に動かすの。こうだよ、こう!」


 ダンス部の先輩。

 スタイルがとても良くて、くびれがくびれて。

 私は腰を動かし過ぎて、腰痛が痛くて。


 私は今、『腰』と『くびれ』がゲシュタルト崩壊しているところです。



「腰をこう!」


「腰をこう?」



 先輩が、私の上半身をキツく抱きしめて動かないようにしてくれる。

 それで、私は腰だけを動かせばいいんだけれども。

 全然腰が動かない。



「腰!」


「はい!」


 いつまでもできない私だけど、先輩はずっと付き添ってくれていた。



「ふう……。ちょっと休憩しようか?」


「……はい」


 運動神経は良いと思っていたんだけれども、体が硬いのかな。

 全然できない……。


 先輩は、体育館の横から学食の方へと歩いていく。


山岸やまぎしさん、ちょっと散歩でもしよ」


 そう言われたので、私はついて行く。



 前を歩く先輩。

 スタイルにしか目がいかないけれど、これだけの腰のくびれを作るためにどれだけ苦労したんだろうな……。



「なに、腰ばっかり見て」


「あ、いえ。すいません……。スタイル綺麗で羨ましいなーって思って」


 先輩は笑って返してくれる。



「私もさ、一年生の時は、全然できなかったんだよね。毎日毎日ずーっと腰振って。腰振るって、変な意味じゃないよ? ‌部活だからね」


「……そうなんですね。けど、今ではすごい上手で、羨ましいです」



「その時にいた先輩がね、私に言ってくれたんだ。『私ができるんだから、あなたもできる!』って」


 先輩は、そう言いながら高い空を見上げる。



「その時はね、『先輩と、私は違うんです』って思って文句も言ってたんだけれど、ずーっとやり続けてたら、いつの間にかできるようになってたんだ」


 先輩は、私の方を振り向いた。


「だからさ、もうちょっとやってみよう! ‌私のような『くびれ』が欲しかったらね、やり続けてたら自然とできるよ! ‌頑張ろう!」


 先輩の輝いた目が、今までの苦労を物語ってる気がした。

 一年間、本当に毎日やり続けてたんだろうな……。


 学食の前に着くと、自動販売機がある。

 そこで、先輩はジュースを二つ買った。


「ほら、これ私からのおごり。大丈夫、これカロリー無いから、太る心配ないよ!」


 私は素直に受け取った。


 私に対して、すごく良くしてくれる先輩……。

 なんで、そんなにも頑張れるのだろう……


 何か、これからの練習のヒントになるかもと思って、少し聞いてみた。


「先輩って、どうしていつも、そんなに頑張ってられるんですか?」


 先輩は、今日一番の笑顔で答えてくれた。


「もちろん、アイドルのダンスが好きだからだよ!」

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