骨董品
秋になると、色んな名目で学校行事が立てられている。
スポーツの秋と言って、運動会もこの時期。
行楽の秋と言って、遠足もこの時期。
読書の秋と言って、朝読書の時間も長くされるし。
今日は、芸術の秋と言って、美術館まで見学に来ていた。
芸術って言っても、いっぱいあるじゃんって思うんだけど、日本の事をいっぱい知ろうと言って、伝統工芸品がいっぱい飾ってあるような美術釣館へと来ていた。
絵画とかじゃないのかーって思ったけれども、おそらく校長先生の趣味なのかな?
ずーっと校長先生が、興味深げに伝統工芸品を見ているんだよね。
校長先生の隣に、小田君が歩いていくのが見えた。
校長先生と小田君は、あごに指をあてながら伝統工芸品を見ている。
二人とも同じポーズ。
「お、小田君。この良さがわかるかね?」
「はい。この壺、とても良いです」
あの二人、なんだか意気投合しているな……。
しばらく、うんうん唸りながら伝統工芸品を見ていたら、校長先生が呼び出された。
「校長先生、いつまでも見ていないでこちらで、館長にご挨拶をしてください」
「あー、すまんすまん。今行く」
そう言ってそそくさと、行ってしまった。
校長先生が行った後も、小田君は一人で壺を見ていた。
そんなに良い壺なのかな?
せっかく来たのだから、私も近くで見てみようかな。
校長先生がいなくなった場所に、私も立って見てみる。
小田君は、わたしが横に行っても特に何も気にしないで見続けている。
私も、校長先生と同じく、あごに指をあてながら見てみる。
けど……。
うーん……。わからない……。
「小田君、ちょっといいかな? これって何が良いの?」
小田君は、私をちらっと見たが、すぐに壺に目を戻してしまった。
私は、壺に負けちゃったのか……。
そう思っていると、小田君は解説をし始めてくれた。
「これはですね、まず色が良いんです。この青色を出せる技術が素晴らしい」
そう言われたら、綺麗かも知れないけれども。
けど、言われるまでわからないよ。
私は口に出さずに、心の中だけで答えた。
「あとは、何といっても模様ですね。手で作っているのに、寸分の狂いも無いような線です。機械ではできないような、曲線。そこが、素晴らしいです」
そう言われたら、そうかもしれないかな。
けど、そんな良い物だとしても、私にはやっぱり難しいかな……。
言われないとわからない……。
私が全然分からないのが伝わったのか、小田君が答えてくれた。
「全ての人にわかるっていうのは難しいのかも知れないね」
良いと言ってたのに、諦め気味な小田君。
なんだか、腑に落ちなかったので聞いてみた。
「それって、分かる人にだけ分かればいいってこと?」
小田君は、やっとこっちを向いて喋り出した。
「本当は、みんなにわかってもらいたいんだけれども、それってすごく難しいんです。良さを分かるためには、色んな知識がいるんです。通常の青色と、この青色の違いを比べることで初めて良さがわかったり。この色を出すまでに、どんな苦労があったとか」
小田君は、私に向かって熱く語りだした。
「小田君は、骨董品がすごい好きなんだね」
小田君は、うんと頷いた。
「僕みたいなマニアが良さを語ることで、こういう骨董品に興味持ってくれる人が増えればいいなって」
なんだか、昔の人みたいな髪型の小田君。
メガネも四角くて、上の部分だけ黒いフレーム。
そういう小田君も、骨董品みたいだよ。
けど、近くに来て喋って。
小田君の様子を、良く見てみて。
そうすることで、初めてわかる『良さ』っていうのもあるよね。
私が、他の男子と喋ったことがあるから、わかる事だったりするのかな?
こんなに一つの事に真剣で、すごく深く知っている子って、なかなかいないから。
そういうの、良いなって思う。
……もちろん友達としてですよ。
分かる人には分かるものがあるのかもな……。
「小田君、骨董品って良いね。私も好きになったかも」
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