ゴリラ

 秋になったので、先週は遠足へと行きました。

 事前に年間行事が配られていて、この時期の遠足をずっと楽しみにしていました。


 二年生は、動物園に行ってきたのです。

 夏の暑さがなくなっていて、とっても過ごしやすかったです。


 おやつも三百円までって言われてて、私も好きなおやつを持っていって食べたのです。

 楽しかったなぁ。


 今日は、そんな遠足で楽しかったことを描いてみようという授業が行われています。


「画用紙に、好きに描いてみてください。好きな動物でも良いし、思い出に残っている瞬間を描いてみてください」

「「はーい」」


 私はお絵描きが好きだから、すぐ描けちゃいます。

 おやつ食べていたところが一番楽しかったですが、ちゃんと先生の言うとおり動物を描こうかな。

 何が良かったかな。


 ゾウさんも大きくて良かったし。

 パンダさんもギリギリ見えたし。けど、すぐ見えなくなっちゃったから、あんまり記憶にないな……。

 記憶に残ったと言えば……。



「なにそれ、原田はらだ。お前、ゴリラが好きなの?」

「ははは。ゴリラじゃなくて、原田じゃない?」

「「はははは」」


 私の席の右前の席の原田君が、からかわれていた。


 そうそう。私もそう思いました。

 ゴリラのことが、とっても印象に残っています。

 原田君は、ゴリラの絵を描いているんですね。



 岩山の上で、カッコよく胸を叩いていて。

『ドラミング』って言うらしいんです。

 あれは、とっても印象に残っているなー。


 私も少し描こうと思ったんですけれども……、やめておこうかな……。



 からかわれていた原田君が怒って言い返した。


「ゴリラ、カッコいいじゃん。この良さが分からないかな?」

「ゴリラって、なんか頭悪そうじゃん」

「単純そうで、お前みたいだもんな」

「「はははは」」


 うーん。少し可哀そうな原田君……。

 何もせずに見ているだけの私も、違うよって否定しなければ笑ってる子達と同じなのかもしれないです……。

 けど庇ったら、一緒になって私もからかわれそう……。


 すると原田君は、勢いよく椅子を倒しながら立ち上がった。

 教室内は静まり、みんな原田君に注目した。


「ゴリラはカッコいい! 俺は大好きだ!」



 大きな声でそう言うと、倒してしまった椅子を戻して座った。



 何か良くない雰囲気を感じたのか、先生もフォローした。


「皆さん、人の好きなものに対して、悪く言うのはやめましょうね。動物園に色んな種類の動物がいるように、好きな動物も人それぞれ。違っているからこそ、良いんです」


 先生の言葉に、からかっていた子達は小さい声で「はい」と言って、黙ってしまった。



 なんだろう……。

 原田君のことが、動物園で見た『ゴリラ』と重なって見えた。

 岩山の上で無駄なことは言わずに、自分の事を主張して他のオスたちを黙らせる……。


 カッコいいかも……。



 原田君に見とれていると、原田君は黙々とゴリラの絵を描いていった。


 ……あ、原田君に謝らなきゃ。

 私も、からかってた子達と同罪。

 せめて、ごめんって一言。



 私は席を立ち、原田君の横に行く。

「ごめんなさい。私も原田君の事、ゴリラに似てるなって思っちゃいました。思っちゃったけれど、ゴリラって頭悪いとかいうイメージはなくて、カッコいいと思います」


 いきなり謝ってきた私に呆気に取られていたけれど、ゴリラが褒められているとわかって、微笑んでくれた。

宮瀬みやせは別に、何にも悪くないよ、大丈夫。むしろ、ゴリラの良さを分かってくれてありがとう。俺も、ゴリラって、カッコいいと思う! 俺は、ゴリラ大好きだ」


 私も、原田君に微笑み返した。

「原田君も、カッコいいゴリラみたいだったよ。ゴリラ、私も好きになりました」

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