お墓参り

 今日は秋分の日。

 秋分の日は毎年、私の家族の予定が決まっている。

 それは、家族みんなでお墓参りに来ることだ。


 昨日までずっと暑かったのに、この時期になると涼しくなる。

 秋の高い空の中、涼しい風が吹いていてピクニックをしている気分さえする。


 最寄りの駅から、少し小高い丘を登った先に、おじいちゃんおばあちゃんのお墓がある。

 なだらかな道路はくねくねと曲がっており、その道の先々にお墓が並んでいる。


 先頭を歩いていた妹の桃香ももかが、道路から外れて丘を登ろうとした。


「お姉ちゃん、近道しよう! 先にここを登った方が勝ちだよ!」

「ここであんまり楽しそうにするもんじゃないよ!」


 私が注意をすると、桃香は少ししょんぼりして、少し登った丘を降りてきた。

 そんな桃香の様子を見て、お父さんが口を開いた。


「桃香、愛香あいか、お墓参りは楽しんでも良いよ。ご先祖様もそういう顔の方が見たいだろう。はしゃぎすぎないくらいで楽しみな」


 妹の桃香ももかが元気良く返事をした。

「はーい!」

「お父さんってば、桃香に甘いんだから」


 お父さんは微笑んで、指を横に振った。

「桃香にだけ言った言葉じゃないぞ? もちろん愛香だって楽しんでおいで。桃香が待ってるぞ」

「もう。私もうそんな年じゃないんだよ」



 桃香に呼ばれて、お父さんからは行ってこいと言われて。

 高校生にもなって、なんでこんなところで、はしゃがなきゃならないのよ……。


 まぁ、久しぶりの家族でのお出かけだし。

 桃香に付き合ってあげるか。


 やるからには、全力です!


「桃香、今ちょうどハンデが着いたくらいだから、お姉ちゃんは本気で追いかけるからね!」

「これだけ差があったら、負けないもーん。本気出して良いよー!」


 これでも、毎日部活で走りこんでるんですよ。

 こんな丘くらい、本気を出せば追いついちゃうんだから。


 私は、全速力で丘を駆け上がっていった。

 妹との距離は少し開いていたので、すぐには追いつかない。

 けど、どんどんと差は縮まっていく。


「ほら、もう追いついちゃうぞ!」

「お姉ちゃん早い! けど、桃香はもうすぐゴールだもんね!」


 桃香も、去年よりも大きくなったのか、走るのも早くなっていた。

 私が追いつきそうな所で、桃香は丘を登り切った。


「やったー! 桃香の勝ちだね!」

「はぁはぁ……。全速力はしんどいね……。桃香、早くなったね」


 私に勝ったのが嬉しいのか、遊んでもらえたのが嬉しかったのか、桃香はずっとニコニコとしていた。

 私が息を整えている間に、お父さんとお母さんも追いついた。


「お疲れ様。二人共良い笑顔だよ。おじいちゃん、おばあちゃんに挨拶しよう」


 良い笑顔?

 あれ、私も知らない間に笑ってたのか。


 そういえば、桃香と遊ぶのも久しぶり過ぎだったからかな。

 毎日部活ばっかりだったし……。




 丘を登った先から少し歩き、私たちの家のお墓の前まで行く。

 しばらく来ていなかったからか、お墓は草ぼうぼう。


 そんな伸びていた草を切ったり、お墓を洗ったりして、綺麗にしてあげた。

 最後に、一人ずつ線香を供える。


 そして、みんなでお墓の前で手を合わせた。


「おじいちゃん、おばあちゃん。今年も桃香が来ました。お姉ちゃんに走って勝てるくらい成長しました」

「もう桃香ったら……。おじいちゃん、おばあちゃん。お久しぶりです。私も、桃香に負けないくらいもっと成長するので、これからも見守ってください」


 私が顔を上げると、お父さんもお母さんもまだ手を合わせて顔を伏せていた。

 しばらくそのまま動かないでいたが、最後まで拝んでいたお父さんも顔を上げた。


「桃香、愛香、たまにはこうやって家族でお墓参りもいいだろ?」

「私、お墓参り大好き!」


 桃香は元気に答えた。

 私も、たまにするお墓参りも良いものだなと思った。


「そうかもね。家族でこうやって過ごせるのが、良いかもね。私も好きだよ。お墓参り」

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